指示には従いつつ抗議する

これまで上司側に許されるキレ方を見てきたが、鬱憤が溜まっているのは部下側も同じ。ろくでもない上司に対して、部下はどこまでキレることが許されるのだろうか。

原則として、有形力の行使がいけないのは上司側と同じだ。では、上司から理不尽なことを命じられたとき、無視したり拒否するのはどうだろうか。法的には、意味のない作業や苦痛の大きい作業に命令としての効力はなく、拒否しても問題ない。たとえば上司の家の草むしりなどは、業務に関係がないので拒否が可能。長時間労働などの過重な労働や、追い出し部屋に入れて何もさせないといった過小な労働も違法性が高く、拒否してもかまわない。ただし、これはあくまでも理論上の話だ。実際に拒否することにはリスクがつきまとう。

「会社側は無理やり理屈をつけて、業務上必要だったと主張するでしょう。たとえば嫌がらせでひたすら就業規則を書き写させるというケースがありますが、これはグレーで、まったく業務に関係がないとは言えません。拒否したら業務命令違反、キレて帰ったら職場放棄と言われて逆に処分を受けるかもしれません」

会社や上司に向かってキレることにリスクがあるとしたら、泣き寝入りするしかないのか。

「要はキレ方の問題です。会社側に処分の口実を与えないように、いきなり実力行使するのではなく、まずは指示に従いながら抗議すべき。いまはどの会社もコンプライアンスに敏感ですから、この人に訴えれば動いてくれるという上司が直属の上司以外にいるはず。味方になる人をあらかじめ見つけておくことが大事です」

会社や上司に対しては、このようにリスクを極力減らしながら、したたかにキレることが理想だ。ただ、精神的に追い込まれると、判断力が働かずに戦略的にキレることが難しくなる。ヘタに我慢しないで、早めにキレることを心がけよう。

千葉 博(ちば・ひろし)
弁護士。1990年に東京大学法学部を卒業し、翌年司法試験合格。これまでに扱った事件は5000件以上、現在も年間数百回法廷に立つ。著書は『労働法 正しいのはどっち?』(かんき出版)など多数。
 
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