部下から上司へのパワハラも成立

パワハラは上司から部下に対して行われるものだと考えている人は多いだろう。しかし、上司だからといって被害に遭わないとはかぎらない。部下が上司に嫌がらせやいじめを行う“逆パワハラ”も横行しているからだ。

典型的なパターンを紹介しよう。ある工場では、班長が正社員で、他の作業スタッフはパート社員という体制を敷いていた。職務上の権限は当然、上司である班長のほうが強い。しかし、パート社員の中に班長よりキャリアが長く、実質的に職場を牛耳っているベテランがいた。班長がその人の機嫌を損ねた結果、パート社員が結束してシフトの作成に協力しなかったり、挨拶せず無視するなどのいじめが始まった。班長はメンタルに不調をきたして、他の工場への異動を願い出たという。

こうした嫌がらせが違法行為になるかどうかは、ケースバイケースだ。厚労省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が定義した、パワハラの4要件が参考になるだろう。(1)同じ職場で働く者に対して、(2)職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、(3)業務の適正な範囲を超えて、(4)精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為、の4つだ。

逆パワハラで注目したいのは(2)の優位性だ。友常理子弁護士は、次のように解説する。

図を拡大
パワハラは双方向で起こり得る

「通常、部下は職務上の地位で上司に優越していません。しかし、人間関係や専門知識で優越性があり、それを背景に嫌がらせするケースはありえます。たとえば部下が他の同僚を取り込んで上司を無視したり、自分にパソコンのスキルがあるのをいいことに上司に『パソコンも使いこなせないんですか』と悪口を言って侮辱したりすれば、部下からのパワハラと認定される可能性があります」