今年は企業の採用日程が後ろ倒しになったことに加え、売り手市場の傾向が強まったことで、秋採用を検討する会社が増える可能性がある。しかし、応募してくる学生の多くは、すでに他社の内定を持っている。何に気を付けるべきなのだろうか。
内定は判例上、「始期付解約権留保付労働契約」とされている。始期付解約権留保付とは、働き始める時期と、卒業できなかった場合などに内定を取り消せる権利が付いているという意味である。条件付きとはいえ、内定は、単なる“事実上の期待”ではなく、法的な“契約”であることには変わりがない。
企業法務に詳しい畑中鐵丸弁護士は、「先に内定を出した企業に訴えられるリスクはゼロではない」と指摘する。
「他社から従業員を大量に引き抜いた場合などに、被害企業が、積極的債権侵害を理由として損害賠償を請求して20億円近くの賠償が認められた判例があります。採用内定という“契約”関係にある学生を横取りすれば、法理論上、これと同様、不法行為を構成することになります」(畑中弁護士)
もっともこれはあくまで理論上の可能性であり、現実的リスクは高くない。それでも不安ならどうすればいいのか。
「学生から『他社との内定関係は自身で一切処理するので、ご休心されたい』と一筆もらっておけば、リスクは相当程度軽減されるでしょう。内定者に責任を転嫁する形になりますが、学生の職業選択の自由という別の人権保障の観点から、学生が内定を反故にする法的リスクはゼロに近く、実質的には誰もリスクを負わずにすみます」