全国紙で一面カラー広告を打てば、その費用は3000万円以上だ。少なくとも2日続けてなので、6000万円以上の広告費を使ったことになる。

医学会は「裸の王様」

これをみた若手医師からは「脳神経外科学会ってアホですね」とコメントが来た。こんな広告を見せることで、学会員や一般読者はどう感じるか想像できないようだ。「裸の王様」になっている。

言うまでもないが、学会の主たる目的は情報交換で、学会幹部は「会員ファースト」に務めなければならない。ところが、彼らの視点は「教授ファースト」だ。若手医師には「学会員から会費をまきあげ、やりたい放題」に映る。

これが、多くの医師が専門医制度に反発する理由だ。では、医学界の幹部とは、どんな集団なのだろう。

将来を象徴する東大の衰退

最近、日本医学会の執行部が変わった。私は名簿を見て驚いた。21名の理事のうち、12名が東大出身だったのだ。京大からは2人、阪大からは1人しかいなかった。

内科に限れば、7名中5名が東大出身者だった。このうち4人は都内の有名進学校の出身だ。

余談だが、機構の理事長・副理事長・理事・幹事のうち医師は23人。うち10人が東大卒だ。

日本医学会が「東大医学部ファースト」のお仲間を中心に構成され、その背景は均質であることがわかる。

この中にはノバルティスファーマの臨床研究不正事件に関わった人間もいた。仲間うちの議論では、このことは問題視されないようだ。むしろ、外部から批判されると、束になって強行突破する。新専門医制度の議論でも、「誤解されている」と言い続けている。この結果、余計に周囲との軋轢を増している。このあたり、森友・加計学園問題を巡る安倍政権の対応と似ている。

雑誌『選択』は7月号に「医学部は京大・阪大の「二強時代」「人材と生産性」で東大に大差」という記事を掲載している。

この記事の中で、東大が「医学界の官僚」と化す一方、京都大学や大阪大学が着実に実績を上げていることが紹介されている。スタッフ1人あたりの主要医学誌に掲載された論文数は、京大は東大の3倍、阪大は2倍だ。

東大の衰退は日本の医学界の将来を象徴している。自らの利権を守るために徒党を組んで、無理を押し通してはならない。社会の信頼を失い、若手からも見放される。借金で首が回らなくなった機構を清算し、専門医制度の議論はゼロからやり直すべきである。いまこそ「現場ファースト」の視点をもち、地に足のついた議論が必要だ。

上 昌広(かみ・まさひろ)

医療ガバナンス研究所 理事長。1968年、兵庫県生まれ。東京大学医学部医学科卒業、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員を経て現職。著書に『復興は現場から動き出す』などがある。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC」の編集長も務める。

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