バブル崩壊後、消滅の危機に瀕していた「新宿ゴールデン街」が、ここ数年劇的な復活を果たしている。特に目立つのは外国人観光客の姿だ。なぜいま外国人に人気なのか。『「夜遊び」の経済学』(光文社新書)の著者・木曽崇氏が、「ナイトエコノミー」という観点から分析する――。

外国人は六本木・渋谷ではなく新宿ゴールデン街へ行く

現在、首都圏の夜の街で最も外国人観光客たちを魅了している街はどこか。

六本木でも渋谷でもなく、間違いなく新宿ゴールデン街である。ゴールデン街は、新宿区歌舞伎町の外れに位置する約3万平方mの区画。その区画に4.5坪程度の店舗面積の極小飲食店、約200店舗が軒を連ねる新宿きっての超過密エリアである。

この街は特に高度成長期からバブルにかけて東京の代表的な繁華街のひとつとして知られるようになり、この地域に複数軒あった「文壇バー」と呼ばれるバーでは、夜な夜な日本を代表する文化人たちがあつまり文学論に花を咲かせることでも有名になった。

『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」 』木曽 崇著(光文社刊)

このようにバブル期の華々しい側面がよく知られるゴールデン街であるが、バブル崩壊後、この街が消滅の危機に直面していたことはあまり知られていない。

ゴールデン街は東京の中でも特にバブル崩壊の影響を最も真正面から受け止めた街のひとつであり、この地域に数多くあった飲食店も1990年代半ばになると撤退が相次いだ。その後、この地域では幾度も再開発の計画が持ち上がったが、戦後のバラック街だったころから続く域内の複雑な地権問題もあり、それら計画はことごとく失敗してきた。その結果、起こったのが古い施設が再整備もされずに長らく残存する街のゴーストタウン化であった。1990年代はゴールデン街にとって、まさに「冬の時代」であったといえる。

 
▼「レトロな街並み」が人を引き寄せ観光資源になった

しかし、そのゴールデン街がここ数年、急速に夜の遊興客たちを集め、劇的な復活を果たしている。

その契機となったのが、この地域に長らく残されてきた昭和の香りを残す木造長屋形式の「レトロな街並み」である。バブル後の再開発から逃れてきたこの古い街並みは、多くの現代都市が失った「古き良き時代」を思い起こさせる街並みとして、改めて「観光資源」として注目されるようになった。