なぜ日本には「夜の観光資源」が乏しいのか?

このような世界の潮流の中で、わが国のナイトタイムエコノミー振興に対する取り組みは大きく立ち遅れているのが実情だ。

「日の出と共に目を覚まし、昼は畑を耕す」という農耕文化が育んだ社会規範がいまだ根強く残るわが国では、「夜の経済」というのはいまだ軽視されることが多く、行政による振興の対象として認知されるケースは非常にまれである。特にわが国では多言語対応、もしくは言語不要で楽しむことのできる夜の観光資源の選択肢は比較的夜の観光資源に恵まれた都市部においてすらも、実は他国の国際都市と比べると「夜の観光資源」が乏しい。

著者の「国際カジノ研究所所長」木曽崇氏

例えば、2016年に日本政策投資銀行が行ったアジア8地域からの訪日外国人旅行者に対して行ったアンケート調査に基づくと、「日本旅行で最も不満だった点」に関する問いに対して1位が「英語の通用度」、2位が「母国語の通用度」、3位が「旅行代金」と不満が続き、7位に「ナイトライフ」が登場している。

すなわちわが国を訪れる訪日外国人は、その多くが「ナイトライフ体験」に不満を持っており、その点においてわが国の観光資源は明らかに改善が必要であることがわかる。

その結果、起こっているのが外国人でも楽しめる夜の観光資源を提供しているごく限られた特定施設に訪日外国人客が殺到するという逆転現象である。それが、現在の新宿ゴールデン街の活況を生んだ最大の要因となっているのだ。

▼なぜゴールデン街はチョイ飲み・ハシゴ酒をしやすいか?

現在のゴールデン街には日が傾き始めた時分から観光客が現れ始める。観光客は、この地域特有の入り組んだ路地を散策しながら、気になる店舗を見つけてはチョイ飲みをする。 そもそもこの地域の飲食店は営業面積が小さなカウンタースタイルの店舗が中心で、キッチンも狭く、各店がじっくり腰を据えて客に飲ませるような豊富なメニューを取り揃えているわけではない。

しかし、その狭小の店舗が逆に「ハシゴ酒」にはちょうどよい環境となっており、この街を訪れる観光客たちは街を散策しながら小さな飲み屋を2軒、3軒と巡りながら街全体の雰囲気を楽しむのだ。

当然ながら、この街で発生する経済の大きさは想像以上に大きくなる。なにしろこの地域を訪れる観光客にとっては、街を歩き、域内の店舗で消費を行うことそのものが観光の目的となっており、当然のようにそこには付随する観光消費が発生するのだ。現在、新宿ゴールデン街は首都圏の繁華街の中でも人気のある飲食店の出店エリアとなっており、事業者が出店を希望してもなかなか空き店舗が見つからず順番待ちとなっているのが実態である。

このような新宿ゴールデン街の復活劇には、夜の街の活性化に向けた新しい施策のヒントが隠されているのではないか? 

6月16日発刊の拙著『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』(光文社新書) では、ここで紹介した新宿ゴールデン街のこと例をはじめとして、現在、世界でますます注目があつまるさまざまな「夜の街の活性化策」を多数紹介している。ぜひご覧いただきたい。

木曽崇(きそ・たかし)
国際カジノ研究所所長。1976年、広島県生まれ。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)、日本で数少ないカジノの専門研究者。米国大手カジノ事業者にて内部監査業務を勤めた後に帰国し、2004年にエンタテインメントビジネス総合研究所に入社。主任研究員としてカジノ専門調査チームを立ち上げ、国内外の各種カジノ関連プロジェクトに携わる。’05年より早稲田大学アミューズメント総合研究所カジノ産業研究会研究員として一部出向、国内カジノ市場の予測プログラム「W‐Kシミュレータ」を共同開発。
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