商品を開発したり、新たなビジネスを始めたりする際に、よく行われるのがマーケティング・リサーチです。マーケティング・リサーチの基本は、顧客に「なぜ」と聞いて答えを出すことです。しかし、私は、マーケティングにおいて、顧客に「なぜ」と聞いてはいけないと考えています。

なぜなら、顧客に「なぜ」と聞いても、顧客が答えを持っているわけではないからです。合理的な理由づけを相手に強制することになりがちで、その答えは本心からのものとは言えないのです。100人が「欲しい」と答えたからといって、その商品が売れるとは限らないのが現実です。

私は、「なぜ」と聞くべき対象は顧客ではなく、「自分」ではないかと考えています。顧客が「これが欲しい」と言っているからつくるのではなく、「これをつくろう」という自分の確信を問い直すのです。ほかの人がどう思っているのか、本当のところはわかりません。しかし、自分が何かを見て感じたことは、確かなことです。確実なことを調べたほうが、より生産的ではないかと思うのです。

このように、自分がなぜそのようなことを考えているのか、確信を持っているのかを、確かめ直すような思考を「本質直観」と呼びます。

本質直観は、もともと哲学者のフッサールが生み出した考え方です。私がこのアイデアを得るきっかけになった『はじめての哲学史』(竹田青嗣・西研編)には、「直観補強型思考」と「直観検証型思考」という2つの思考法が紹介されています。

直観補強型思考とは、私たちが普段しているような、一般的な思考法です。自分の何かしらの思いや考えを、関連する知識を手に入れることで、より強固にしていく思考法です。一方、直観検証型思考は、哲学の思考法です。自分が何かしらの思いや考えを抱いていることに対して、そもそもどうしてそんなことを考えてしまったのかを考え、問い直す思考法です。

どちらも自分の抱く確信を出発点にするものの、そこから向かう方向は真逆です。直観補強型は自分の外部に出ていくことを通じて、直観検証型は自分の内部に入っていくことを通じて、その正しさを確認しようとします。

2つの思考法のうち、直観検証型思考を重視するのがフッサールの現象学です。外に向かう思考は相手に到達しようがない(相手が何を考えているのかはどこまでいってもわからない)のだから失敗せざるをえません。一方、私たちが時に何かしらの確信を得ることがあるのは確かであり、そういう確信が得られたこと自体は疑いようがないのです。本質直観とは、この直観検証型思考を指しています。