ウォークマンが「いける」と思った理由

本質直観のイメージをつかむために、2つの例を挙げて説明しましょう。

盛田昭夫氏への追悼の意を表するスティーブ・ジョブズ氏。(時事通信フォト=写真)

優れた経営者ほど、マーケティング・リサーチを必要としないように感じます。ソニー創業者の盛田昭夫は「マーケットサーべイには頼らない。『あなたは何が要りますか』と聞いてつくっていたんではおそいんですよ」(「週刊ダイヤモンド」1987年6月6日号)と述べています。アップルのスティーブ・ジョブズも、マーケティング・リサーチなどしないと公言し続けました。彼らが大事にしていたのは、自分の中の確からしさだったのではないでしょうか。その確からしさを、より強く確信するために、ひいては多くの人々に受け入れてもらうために、彼らは自分の心を問い直すという作業を常に行っていたのではないかと思います。

例えば、ウォークマンを製品化する際、なぜ録音機能なしに再生機能のみで大丈夫だと考えたのか。他人がどう思っているかではなく、自分自身の中で確信の理由を問い直せば、新たな理由が見えてきます。これまで音楽を聴いているときに、録音をしたいと思ったことがあったか。あったとすれば、それはどういうときだったか。さらに、日常的に歩いている中で録音する機会はどの程度あるか……。自分の確信がさまざまな前提に支えられ、もしかすると日常的な常識のもとで生まれていたことに気づくはずです。

なお、マーケティング・リサーチが不要というわけではありません。リサーチで得た結果を、証拠とするのではなく、きっかけとするのです。調査結果を見て「これは何だ」と思った瞬間がポイントです。「これは何だ」と自分が思ったのはなぜかを考えるのです。