“破裂すると致死率90%”、緊急に病院に運び込まれたとしても救命率は50%程度。この厳しい状況に追い込まれる病気が「腹部大動脈瘤」。

動脈が膨れる動脈瘤は体のいたるところにできる。脳の動脈にできると脳動脈瘤、胸部の大動脈にできると胸部大動脈瘤といった具合である。その中で、最も発生しやすいのが腹部大動脈瘤。

この腹部大動脈瘤のできる大動脈は、心臓と体の隅々を結ぶ主要な血管で、腹部を通っている大動脈を、腹部大動脈と呼んでいる。

腹部大動脈は通常直径2センチ程度。これが4センチ以上になると腹部大動脈瘤と診断される。そして、予防的治療が考えられるのは、破裂のリスクが高くなる、女性で直径4~5センチ、男性で直径5センチを超えたときである。

もちろん、このような状態が手に取るようにわかるのではない。実は、腹部大動脈瘤が破裂前に発見されるのは、何かほかの病気で検査を受けたときに、偶然に見つかった場合なのである。

“サイレント・キラー”と呼ばれる腹部大動脈瘤は破裂するまで、まったく予兆をあらわさない。まさに、ある日突然、その破裂は起こる。

それだけに、「年齢60歳以上」「高血圧」「喫煙」「メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)」「家系に動脈瘤になった人がいる」などのリスクファクターのある人は、50歳を超えたら、3年に1回程度、動脈瘤の検査を受けるべきだろう。また性別では4対1で圧倒的に男性に多い。

腹部大動脈瘤は「腹部超音波検査」で、99%はわかる。腹部超音波検査は診察台にあおむけに寝て、おなかに超音波が通りやすいようにゼリーを塗り、プローブという超音波発信器具を腹部にあて、モニターに映し出された画像をチェックする。放射線をあびることのない体にやさしい検査である。

検査後、大動脈瘤が発見されると、「場所」「形」「大きさ」「全身状態」など、さまざまな要素を考慮して対応が決まる。破裂リスクが大きい場合は、予防的治療となる。

治療には「開腹手術」と「ステントグラフト手術」がある。現時点で一般的治療といえるのは、開腹手術の「人工血管置換術」。大動脈の血流を遮断し、動脈瘤のできたところの血管をポリエステル(ダクロン)でできている人工血管に置き換える手術である。

そして、2007年4月から保険適用になったステントグラフト手術。手術とはいうものの、実際はカテーテルを使った開腹しない治療である。

患者の脚の付け根の部分を3センチ程度切開し、そこを通っている動脈から直径7ミリくらいに折りたたんだステントグラフト(金属バネ付きの人工血管)の入ったカテーテル(プラスチックの管)を挿入し、患部にまで運び込む。そして、瘤の場所にステントグラフトを留置すれば治療は終わる。

開腹手術は入院3週間に対し、ステントグラフト手術はわずか3~4日。そのうえ、「全身麻酔の必要がない」「回復が早い」「安全性が高い」といわれ、将来的に治療の中心になると思われる。

 

食生活のワンポイント

大動脈瘤は血管の瘤なので、基本的に動脈硬化を抑える食生活が中心となる。

(1)禁煙!

(2)脂肪の多い牛肉、豚肉、鶏肉などの脂(あぶら)部分の摂取は、できるだけ少なく!

(3)新鮮な野菜、魚を食べるように!
塩分が少なくて大丈夫なので減塩になる。

(4)バランスのよい食事!
肉、魚、根野菜、葉野菜、豆類、海藻類、きのこ類、乳製品などを、バランスよく。

(5)1日2リットル、水分を摂取する!
そのほか「1日3食、腹八分」「早食い、ドカ食い禁止」「お酒は適量」など。腹部大動脈瘤