本当に実現可能か、きちんと交渉したか

商社における重要な仕事は、投資に値する案件を見つけ、顧客、パートナーとともにビジネスの骨格をつくり、それを実現すること。一つの案件をまとめるには、まずしっかりと自分たちのやりたい形を定め、どう実現するかをプランニングする。我々はそれを「ゲームプラン」と呼びますが、どこでどういう交渉をすればやりたい形が実現できるのか計画を立てるわけです。あとは計画に基づいて、一つずつ交渉を進めていく。行動することで成功の確実性を上げるのが商社の営業です。そうして一つずつ積み上げて最後に出てくるのが書類。つまり書類とは構想力と実行力のエッセンスなのです。

もし書かれた内容が曖昧だったり、もって回った表現になっていたりすれば「本当に実現可能なのか?」「ネゴ(交渉)負けしてきたんじゃないのか?」と、見る目が厳しくなります。

ビジネスは競争であって、スピード感がなければ負けてしまう。時間軸の中で考えうるすべてのことを潰したうえで意思決定を行わないと、予選にすら参加できません。なおかつデリバラビリティを高めることにも徹底的にこだわってもらう。となると、資料が出来上がる前に勝負が決していることもある。だから書類は簡潔明瞭でいいのです。

社長に就任して1年5カ月になりますが、その間に国内では社員と40回以上のランチ会を重ねてきました。そのほかに海外拠点の現地スタッフや関係会社の社員とは約30回。毎回10人ほどの社員と順に意見を交換します。

一人と話せるのは10分ほどですが、そこで話す内容のまとめ方で上手い人、下手な人がいます。単なる業務の報告よりも、自分が抱えている課題にいかに取り組んでいるかを話したり、自分が一国一城の主になったつもりで「経営陣には会社や国の未来のために、ここをよくしてもらいたい」などと提案したりする人は高く評価します。仕事にこだわりや執着がある人は、その裏に仕事に対する愛情を感じられます。当然その人の仕事に対する信頼感や安心感が増しますよ。

これは書類でも同じでしょう。短く簡潔な書面であっても「自分はこうしたい」というその仕事に対するこだわり、執着を感じさせるものは目を引きます。

当社では状況や相手を分析するばかりの者より、バッターボックスに立ってバットを振ってくる人間を増やしたい。社員には今後も、書類に時間を割くより外に出ろと言っていくつもりです。足を使い、汗をかいたうえで簡潔にまとめられた書類なら、簡単なものでも十分説得力を持つものです。

三井物産社長 安永竜夫
1960年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て、2015年4月より現職。
(構成=大島七々三 撮影=的野弘路)
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