実は「自由」ではなかったMP3

MP3は著作権保護技術とセットで使われることが少なく、「自由な形式」というイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、こと「特許」の観点でいえば、MP3はいろいろと議論を巻き起こしてきた。

MP3は単独の技術でできているものではない。データ化し、圧縮する基本的な技術は同じであるものの、特に小さなデータ量で音の劣化を抑えるノウハウや処理技術には細かい特許が別途存在する。

冒頭で述べたように、MP3はフラウンフォーファーが主導的な立場をとってきた。彼らは初期から、MP3の利用について、仏トムソン(現テクニカラー)と共に、特許ライセンス料の支払いを主張してきた。大手家電メーカーやソフトメーカーは、紛争を避ける意味合いもあり、彼らと特許のクロスライセンス、もしくはライセンス料の支払い契約を交わしている。

一方、MP3が利用されていく過程では、フラウンフォーファー・トムソンの特許との関係があいまいなままにソフトウエアが開発され、特にPC上で広がっていった部分もある。どの規模での利用まで請求されるのか、どの部分が権利侵害とされるかの見通しが立ちづらかったのである。中には半ばわざと権利関係を無視して利用しているものもあるようだが、リスクを感じて立ち止まる人々もいた。

面倒なのは、MP3関連特許について、さまざまな企業が関係を主張したことにある。例えば、仏アルカテル・ルーセントは2003年、マイクロソフトに対し、Windowsを中心とした製品が、アルカテル・ルーセントの持つMP3関連特許を侵害した、として訴訟を起こしている。マイクロソフトはフラウンフォーファーとライセンス契約を交わしているにもかかわらず、2012年に両社が合意に至るまで(その内容は明かされていない)、9年にも渡る係争を続けることになった。