究極の“核容認”論で受けた「売国奴!」の猛批判
戦争への過程というものを体験できた貴重な数週間だった。4月下旬にピークに達した北朝鮮危機。今はちょっと収まったけど、あの頃日本では連日、北朝鮮とアメリカの動向が報道されていた。皆さん覚えています?
アメリカのトランプ大統領が、自国民に対して化学兵器を使ったとされるシリアの軍事拠点にトマホーク・ミサイル59発をぶっぱなした後に、今度は北朝鮮に対して、大陸間弾道ミサイルの発射実験や核実験を止めろと警告。原子力空母を含む打撃群を北朝鮮近海に送ると宣言し、トマホーク150発ほどを搭載した攻撃型原子力潜水艦「ミシガン」が韓国・釜山港に入港。日本の海上自衛隊もアメリカ海軍との共同軍事演習に参加した。
トランプ政権は、北朝鮮が警告に反した場合には軍事力の行使も否定しないと明言した。アメリカにとっては、北朝鮮が核実験に成功し、大陸間弾道ミサイルの発射実験にも成功すると自国本土を狙われる可能性が出てくる。だからこそ、是が非でも北朝鮮の実験を阻止しなければならない。
国際社会において、北朝鮮による核保有は阻止すべきだということに誰も反対はしない。もちろん日本もね。
ただ、北朝鮮の核保有を阻止するためにアメリカが北朝鮮を軍事攻撃すべきかどうか、という段階になれば話が変わってくる。もちろん一定の圧力をかけることは必要だ。しかし軍事的圧力は、最後に軍事力行使もあることが前提となって初めて「圧力」になる。
あのとき、日本国内では北朝鮮に圧力をかけろ!! の大合唱。だって圧力を止めろとなれば、北朝鮮の核保有を認めることになってしまうから、普通は圧力は止めろなんてことは口に出せない。だからとにかく、北朝鮮への圧力強化!! ばかりを、ほとんどの政治家や自称インテリは叫んでいたね。もちろん何が何でも平和主義の人たちは圧力反対だったけど。
前号(公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.53)で僕は、北朝鮮の核保有を阻止するために武力攻撃という手段を用いるべきかどうかは、日本がミサイル攻撃を受けることと天秤にかけての究極の判断だと論じた。そして、日本へのミサイル攻撃を避けるためには「最後は北朝鮮の核保有を認めざるを得ない」という結論に達した。
そのことを公にしたら、売国奴!! と凄まじい批判を受けたよ。
あー、これが太平洋戦争時によく使われた、「非国民」という非難なんだなと実体験したね。
僕はもともと韓国大統領選挙とフランス大統領選挙を取材するために、4月下旬から5月のフランス大統領選挙投票日までソウル経由でパリに向かう日程を組んでいた。そうしているうちに、北朝鮮とアメリカの緊張状態が発生。
僕が海外出張をするときはスタッフ2名が同行する。この2名の安全確保の件もあるので、うちの事務所でソウルに行ってもいいかどうか検討したんだ。僕の政治家時代に築いたネットワークをフル活用して情勢分析をした。そして「大丈夫だ」という結論を得た。
その情報の中身はここでは言えない。巷の自称インテリが言っているような話とは異なる。だいたいね、「アメリカは絶対に攻撃をしません」なんて言ってる自称インテリもたくさんいたけど、いい加減なもんだよ。自分は朝鮮半島から離れた日本にいながら、「絶対に攻撃はしません」って。仮に自分の予測が外れてアメリカが攻撃に踏み切っても、日本にいる自分にはほとんど害が及ばないから結局は適当なコメントになるんだよね。
軍事衝突は発生しないという予測が当たれば「ほら、俺の(私の)言ったとおりだろ(でしょ)」と自慢して、逆に予測が外れて軍事衝突が発生しても「トランプ氏は予測不可能でした」というコメントで終わり。本当に軍事衝突が発生したらそもそも、そんな自称インテリの予測の当たり外れの検証なんてしている場合ではなくなる。
僕は今は無責任なコメンテーターの一人だけど、実際に政治をやって権力を行使した経験があるから、常に権力者の視点で、権力者の思考を分析するコメントをするようにしている。ポジション的に中途半端な関係者から聞いた話を披歴したり、適当な予測をすることに重きを置いていない。権力者ならどう判断するかを権力者の視点で説いていく。これが今の僕にできる役割かな、と思っている。
だから今回、自分を対象にある実験をしてみた。戦地になるかもしれないソウルに行くことのない立場での判断と、ソウルに行く立場・ソウルに身を置いた立場での判断の違いはどんなものだろうか?という実験。ゆえに韓国大統領選挙の取材というよりも、この実験のために韓国行きを検討したんだ。そうしたら、やっぱり権力者自らが戦地に身を置くかどうかは、軍事的な判断に決定的な影響を与えるということが分かったね。
もし僕がソウルに行く予定がなければ、まあその辺の自称インテリと同じような情報をもってアメリカが攻撃するのかどうか判断しただろうね。当たれば「ほら、俺の言ったとおりだろ」と自慢する。仮に外れれば「トランプ氏はやはり予想外でした」とペロッと舌を出すけど、そのときにはソウルは火の海になり、日本にもミサイルが撃ち込まれているかもしれず、僕の予測がどうだったのかなんていう話をしている場合じゃなくなる。
ところがね、自分が火の海になるかもしれないソウルに行くとなると、その情報収集・分析の必死さがまるで違った。これはほんといい経験だった。
だってアメリカの攻撃はないという予想が外れたら、自分やスタッフが死んじゃうんだから、そりゃ必死になるよ。
自分がソウルに行くかどうかを判断するのに、僕が「橋下×羽鳥の番組」(テレビ朝日系)やその他で聞いた自称インテリの意見を参考にすることはほとんどなかった。だってその人たちは自分がソウルに行くわけじゃないから、どんな専門家の言葉でも単なる予想に過ぎない。自分の安全を判断するのに響く言葉はなかったね。
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.54(5月16日配信)からの引用です。もっと読みたい方はメールマガジンで!! 今号は《開戦すれば火の海!ソウルで実感した僕の安全保障論》特集です。