【A】クリエーティブ強化【B】マーケティング強化
「フライング」で視聴率三冠を奪取!
視聴率三冠王の称号はかつてフジテレビのものだった。バラエティ、ドラマともヒットを連発し、1982~93年の12年間、ゴールデンタイム(19~22時)・プライムタイム(19~23時)・全日の視聴率三冠を取り続けた。日本テレビは、この敵なしの王者に挑み、94年に三冠王を奪取する。
立役者は92年9月に集められた20代、30代の若手社員たち13人。彼らは真っ先に王者との徹底比較を実施。両局の2週間分の放映をすべて録画し、2画面並べて同時刻の内容を見比べた。そしてB1サイズ(72.8cm×103cm)の巨大な方眼紙に、視聴率とともに両局のCMの入り方や番組のオープニングに出る絵や登場する人などを事細かに書き込んでいった。
「各自が1日分を担当し、100時間をかけて両局の朝から晩までの番組を凝視し、比較しました」
そう振り返るのは13人衆の1人で、今は九州産業大学で教鞭をとる岩崎達也教授だ。
「フジの番組編成は本当に視聴者を考えたものになっていましたし、自局番組の宣伝も日テレの3倍もCM量を使い、しっかりPRしていました」
当時垂涎のCM枠であった『平成教育委員会』の番組時間内に設けられたCM枠でさえ番組宣伝に使っているのに岩崎氏は驚いた。
一つひとつでは視聴率が勝っている番組もあったが、その前後の番組との流れが悪いために全体として負けていた。番組が終わっても視聴者がチャンネルを替えずに引き続き自局の番組を見てもらうにはどうしたらいいか。それを考えるのが13人の使命だった。
孫子の兵法に「およそ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ」とある。敵と戦うときは正攻法で相対するが、勝敗を決めるのは奇策であるということだ。
テレビ放送の基本的な構成・様式を「フォーマット」と呼ぶ。岩崎氏が加わった視聴率ナンバーワン戦争の正攻法は、タイムテーブルにメスを入れる“フォーマット改革”だった。視聴者本位で番組の並びをよくするのである。
大胆な改編のほかCM枠を削って番組宣伝を入れた。こうした改革は慣習を崩すから広告主を担当する営業や系列局からの反発を招く。だが、
「営業部長と編成部長を交換する人事の妙で、双方の事情や痛みをわかり合いながら改革を進めることができた」
では、奇策は何だったのか。
「代表的なのが、またぎ編集です」
それまで、番組は20時や21時などの正時(00分)から始めるのが常識。他局が同じ時間帯にCMを流す中、日本テレビだけが番組開始を数分間だけフライングさせた。番組を流しているのは1局だけだ。視聴者のチャンネルを回す手が止まる。そのまま最後まで見てもらう作戦だ。今では当たり前の手法となった。
正・奇を織り交ぜた作戦でフジテレビに勝利した日本テレビ。2016年度も3期連続となる視聴率三冠を達成し絶好調である。