「経営陣の数字はもう信じられない」
東芝は3月29日、米国の原子力子会社であるウェスチングハウス(WH)の米国連邦破産法11条(チャプターイレブン)をニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てた。同日の東芝の発表によると、裁判所による再生手続きの開始によって、東芝の「実質的な支配から外れるため、2016年度通期決算より当社の連結対象から外れることになります」としている(※1)。一方で、東芝がWHに対して行っている「親会社保証」を完全実施した場合の貸し倒れ引当金などを見積もった結果、通期決算の最終損益は1兆100億円の赤字になる「可能性がある」とした。もちろん日本の事業会社として前例のない過去最大の赤字である。
昨年末にWHに巨額の損失が発生していることが明らかになって以降、綱川智社長は「米国の原子力事業のリスクを遮断する」と強調してきた。決算期末ギリギリに破産法11条の申請に持ち込んだのも、これによってWHを連結決算から外せば、東芝が泥沼に引きずり込まれる事態が回避できると考えたからだろう。東芝の社内に対しても、「1兆円はあくまで最悪の数字で、WHの再建策がうまくいけば、損失は小さくなる」と説明しているようだ。
果たしてそれは本当なのだろうか。中堅幹部の間にも疑心暗鬼が広がっている。というのも、2015年末に、コスト負担を巡ってWHと紛争になっていた原発建設会社S&W(ストーン&ウェブスター)をWHが買収した時にも、原子力部門の社員たちは「買収によって損失が小さくなる」という説明を受けていた、という。ところが1年たった16年12月に「数千億円規模」の損失が発生することが表面化。17年2月14日に会社が公表した損失額は7125億円という巨額にのぼった。
しかも、この損失は「原子力事業ののれん減損」が理由だった。東芝の経営陣は16年2月に「新生東芝アクションプランの進捗について」という発表をした際にも、「減損の兆候なし」として損失計上は不要という姿勢をとっていた。マスコミがWHは減損が不可欠ではないかと報じていたタイミングでのことだ。
ところがそれから2カ月後の16年4月になると、東芝の経営陣は一転して「無形固定資産の価値が増大した結果、相対的にのれんが減少する」という一般のビジネスマンでは理解不能な理屈を付けて、2600億円の減損損失を16年度の決算に計上する予定だとした。それから8カ月余りで7125億円に損失額が膨らんだのだ。「もう経営陣の言う数字は信じられない」と中堅幹部は吐き捨てる。