米国離脱後始動したTPP11

今年1月23日、トランプ大統領が「TPP協定から離脱する」という大統領令に署名し、世界中に衝撃が走った。あれから4カ月。TPPはどこへ向かっているのか。

米中首脳会談。トランプはTPPの枠外から中国へ切り込む。(AFP=時事=写真)

TPPとは、環太平洋地域でビジネスがしやすくなるよう、障壁を減らすための条件やルールを定めた協定である。参加国の企業や個人が貿易や投資、サービス提供などを、これまでよりもスムーズに行えるようになる。

製造業は、域内で生産する「メード・イン・TPP」製品が税制面で優遇される。工場進出する外国の幅が広がるだけでなく、空洞化がすすんできた国内に拠点を残すメリットも出てくる。小売りにとっては、外資規制が厳しく、国有企業を優遇してきたマレーシアやベトナム、ブルネイなどで緩和がすすみ、アジア市場のビジネス環境が改善する。消費者のメリットも大きい。輸入される農産物の関税が低くなり、工業品関税は99.9%撤廃される。

5年の歳月をかけ協議してきたTPPの協定文書には、昨年2月、日米豪などの12カ国の代表が署名済みである。署名したからといって、契約文書がすぐに効力を発するわけではない。発効のためには、「全参加国のGDPの85%を占める6カ国以上の承認」が必要条件となっている。途中でいくつかの国が抜けて、域内の経済規模が小さくなれば、国内の既得権益を妥協させてまで締結する意味が薄れるからだ。

各国は発効に向け、協定の合意内容について議論し、承認手続きをすすめていた。昨年12月9日、日本の国会で承認されたのは記憶に新しい。

ところが、である。冒頭に記したように、トランプがTPPからの離脱を宣言したのだ。多国間のTPPから、2カ国交渉を優先する通商政策への方針転換である。

ただし米国のTPP離脱によって、協定にある契約内容が無効になったわけでは決してない。問題は1国で参加12カ国のGDPの65%を占める米国の離脱により、発効に必要な「GDP85%以上」の条件が満たせなくなってしまった点だ。

米国抜きでTPPを発効するにはどうすればいいか。発効要件を緩和し、見直した協定に11カ国があらためて合意すればいいだけである。

その動きはすでに始まっている。米国をのぞく11参加国によるTPP、いわゆる「TPP11」である。5月上旬、11カ国の首席交渉官がカナダで会合を行い、TPPを発効させる方針で一致した。5月末にベトナムで開かれる閣僚会合では、11カ国で発効を可能とする仕組みや条文について、協議する運びになっている。節目は最短で、6カ月後の11月にやってくる。APEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議開催に合わせて、協議を最終化できるかが鍵となる。なぜAPECが関係するかといえば、TPPはもともとAPEC加盟国21カ国・地域に門戸が開かれ、同地域で自由貿易圏を実現する構想に向けた枠組みのひとつだからだ。ほかにも同じ目的の枠組みとして、中国が主導しASEAN(東南アジア諸国連合)も参加するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や、東アジアのGDPの7割を占める日中韓FTA(自由貿易協定)がある。