Q. 同僚や目下の人から信頼され、味方になってもらうには?

他者を思いやれる人がリーダーになれる

役員に求められる資質については、古今東西、さまざまな偉人たちに学ぶことができる。多くの偉人が共通して述べているのが他者を思いやる姿勢だ。同期トップで東レの取締役に就任、東レ経営研究所社長などを歴任した佐々木常夫氏が次のものを挙げる。

スティーブン・R・コヴィー博士の大ベストセラー『7つの習慣』には、4番目の習慣として「相手の利益を考えなさい」とある。人に信頼され、味方になってもらうためには、相手のためになることをやりなさい。それが組織を動かす習慣だ、とコヴィー博士は言っている。自分の欲だけを考えている人は役員にはなれない。

中国の古典『論語』も、思いやりの重要性を説いている。孔子は「仁・義・礼・智・信」という5つの徳を挙げているが、なかでもとくに大事だとしているのが「仁」(思いやりの心)である。

マネジメントの教祖と呼ばれるピーター・ドラッカーも著書『現代の経営』の中で「経営とは真摯さである。真摯さに欠けた者をリーダーにしてはならない」と言っている。真摯さとは思いやりに通じる姿勢だ。

また小説に目を転じると、米国の人気作家レイモンド・チャンドラーは、主人公の探偵、フィリップ・マーロウに「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」と言わせている。小説を読んでいなくても、このフレーズには聞き覚えのある人もいるだろう。仕事にも通じる真理なだけに、ビジネスパーソンにとっても印象的な台詞だ。

時代や国は違えども、多くの偉人たちが、自分のことよりもまず相手のことを考えよ、と言っている。「こうした資質は生まれ持って身についているものではない」と佐々木氏。「習慣でつくられる人格だ」と。利他を心がけようと思い続けて行動すれば、やがて他者を思いやる態度が真に身につく。佐々木氏自身、意識してそうした資質を会得したという。