相手を信頼して主体性を促す

思いやりが大切なことはわかるが、現実の世界ではときには厳しい態度で部下を指導する必要もあるのでは。そう心配する人に、リクルートを経て起業し、現在は組織人事コンサルタントとして活躍中の小倉広氏は「なるべく相手を叱ったり、命令したりせず、相手の主体性を尊重すること」を説く。そのためには「フィードバックの5段階」を知る必要がある。

例えば、いつもシャツがズボンからはみ出している部下がいるとしよう。それを正そうとする場合、第1段階のフィードバックは、単にシャツが出ている事実を指摘すること。第2段階では、事実に「変だよ」といった主観や感想を加える。第3段階が、「だらしない」などと評価を加えること。第4段階では「しまったら?」と提案する。第5段階は「シャツをしまえ」と命令する。

相手の主体性を尊重するには、できるだけ第1段階の事実の指摘に留めるのが有効だと小倉氏は言う。遅刻常習犯の部下に、「今日は3分遅刻したね」などと事実だけを伝え続け、いっさい褒めも叱りもしないで遅刻癖を改めさせた人もいるというから効果は実証済みだ。「上から目線」で頭ごなしに叱りつけないほうが、信頼を得やすいのは頷ける。少々まどろっこしく感じようとも、グッとこらえ、相手を信頼することで主体性を促すのが得策だ。

「部下や同僚から信頼されるには、まず自分が信頼するべき」とは、マイクロソフト日本法人で営業部長を務めた田島弓子氏も自身の経験から実感するところだ。営業部長になりたての頃、年齢や業界歴が自分より長い部下を持ち、なかなか信頼を得られず苦労したという。その苦い経験から見出したのが、管理や監視をするのではなく、「自分はあなたたちの味方である。困ったことがあれば相談してほしい」という姿勢を見せること。

心理学には、人は何かしてもらった相手に恩を返したくなるという「返報性の法則」がある。これは上司と部下の間にも成り立つ。田島氏がこうした態度で接するようになってから、部下との関係が良好になり、チームの業績も上向いた。「そもそも、部下から上司へは、思った以上に話しかけにくいもの。だからこそ、上司からの働きかけが壁を取り払うためには効果的」(田島氏)とのことだ。

解答:「返報性の法則」を利用すれば、部下との関係が良好になる
佐々木常夫
佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表
1969年、東大経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻の看病をしながら仕事に全力で取り組む。2001年取締役。03年東レ経営研究所社長。10年より現職。
 
小倉 広
小倉広事務所代表取締役
組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。大学卒業後、リクルート入社。ソースネクスト常務などを経て現職。一般社団法人「人間塾」主宰。「人生学」の探求、普及活動を行う。
 
田島弓子
ブラマンテ代表取締役
IT業界専門の展示会主催会社でマーケティングマネジャーを務めた後、1999年マイクロソフト日本法人に転職。営業、マーケティングに従事し、営業部長を務める。2007年ブラマンテ設立。
 
(大沢尚芳=撮影)
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