Q. 不測の事態への対応力を身につけるにはどうしたらいいか。
「そもそも不測の事態と思うこと自体が間違い」と言うのは、同期トップで東レの取締役に就任、東レ経営研究所社長などを歴任した佐々木常夫氏。「ビジネスは予測のゲーム。常にあらゆるケースを予測して、予測の精度を高めるよう努める必要がある。真に不測の事態を減らしていくことが大切だ」と言う。
危機のときにも機転のきいた対応で事態を収束させるのがうまい人がいる。そうした人は、さまざまな予測を立てる中で、メーンシナリオのほかにも、いくつかの代替案を持っている。したがって、一度立てた計画やいったん下した決断にも、状況の変化に応じて柔軟に修正を加えていける。
それでも、まったく思いもよらない「不測の事態」に陥ってしまったらどうするか。ときに開き直り作戦も有効だ。もちろん破れかぶれという意味ではない。「因縁」という言葉に学ぼうと言うのは、リクルートを経て起業し、現在は組織人事コンサルタントとして活躍中の小倉広氏。「因縁」とはもともと仏教用語。物事の背景には、自分の働きかけによる「因」と、自分の努力や意思を超えた「縁」があり、ビジネスの文脈でも常にこの2つが働いているという。成功にしても失敗にしても、自分の力ではどうにもならない要素がある。不測の事態に陥った場合も、当然ながら挽回の努力は全力でするべきだが、「縁」を積極的に探し、それを活かそうとする姿勢も必要だ。
ただ、この境地に達するためには、実は不測の事態を数多く経験していることが前提となる。
慎重派だと自覚している人に、小倉氏は「ノータイムポチ」の心得を勧める。ネットショッピングで「欲しい!」と思った瞬間にポチリとクリックしてしまうように、好奇心の赴くままに何にでもチャレンジする精神だ。「死ぬこと以外はかすり傷」と思って挑戦せよ、と小倉氏は説く。そうすれば「縁」を活かす経験が増え、「縁」センサーが磨かれるだろう。
佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表
1969年、東大経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻の看病をしながら仕事に全力で取り組む。2001年取締役。03年東レ経営研究所社長。10年より現職。
小倉広事務所代表取締役
組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。大学卒業後、リクルート入社。ソースネクスト常務などを経て現職。一般社団法人「人間塾」主宰。「人生学」の探求、普及活動を行う。