1人黙々とやるタイプは合格率が低い

【永瀬】そうすると、今どきの日本の若者は、世のため人のためになるほうがいいという結論を出すものです。彼らが一番欲しいのは仲間からの尊敬です。リーダーになるとみんなにお手本を示さなければと自分も頑張るようになります。さらに「目の前にいる仲間全員とともに第一志望校に合格する。それができなければ、世のため人のためになるリーダーの資格などない」と言うと、もっと頑張ります。大学生や社会人向けの「東進ビジネススクール」でもこのグループ制を取り入れています。

【弘兼】ビジネススクールでは何を教えているのですか。

【永瀬】英語です。主にTOEICの点数を上げることを目標にしています。生徒には講義を受けてもらうだけでなく、独自開発したビジネス英語に必要な英単語を学べるアプリをやってもらったり、月に1度TOEICの模擬試験を受けてもらったりしている。その際に、グループでお互いに励まし合う仕組みになっているのです。まだうちのスクールでも実践できていないのですが、本当は企業の人事部、あるいは前年TOEICで実績を出した先輩が生徒のインストラクターになり、LINEなどで「今月頑張ったね」などと声をかけ合えば、それだけで点数は50点から100点は伸びると思います。このグループ制の効果については、学生時代に塾の講師をお願いしていたANA社長の片野坂君とも話したことがあります。ANAではパイロットの資格を取るためにアメリカに行きます。そのとき、資格試験に向けて1人で黙々とやるタイプと、みんなでグループをつくって解決策を話し合うタイプに分かれる。この場合、後者のほうが高い合格率になるそうです。

【弘兼】なるほど。永瀬さんはこのグループ制の効果にいつ頃気がついたのですか?

【永瀬】私が育ったのは西郷(隆盛)さんの鹿児島。薩摩藩では「郷中(ごじゅう)教育」というのがありました。これは年長者が年下の人間を心技体の面で指導する青少年の集団教育システムです。その影響からか、子どもの頃から地域に兄貴分がいて、人が集まっていろいろな行事を行う。それが頭にあったのかもしれません。

「今でしょ!」でブレイクした東進ハイスクール現代文講師・林修先生の授業風景。

【弘兼】教育産業では、人材が肝です。つまり誰が教えるか。東進ハイスクールには、「今でしょ!」で有名になった林修先生をはじめとして人気講師を揃えています。講師の採用基準などはあるのですか?

【永瀬】ごく簡単なことです。私がテスト授業を映像で見て、この先生の授業ならば受けたいと思うかどうか。あとは実際に授業をはじめてみれば、ライバルの先生がたくさんいるわけです。どれだけの生徒がその先生の授業を取り満足するか。そこでその後の評価が決まります。

【弘兼】授業の質が数字に表れる。

【永瀬】そういうことです。

【弘兼】時代によって、子どもたちの気質は変わったと感じますか?

【永瀬】はい。以前の子どもは叱られて伸びる「叱られ世代」でした。一方で、今は褒められると頑張る「褒められ世代」になっています。

【弘兼】僕たちの世代は自分たちがガツンと言われてきたので、褒めるのは苦手ですよね。

【永瀬】今の30代半ばから上はまだ、叱るでも通用します。でも下は反発してしまいますね。うちでは「短所矯正型」から「長所伸長型」と呼んでいますが、短所を指摘する教育から褒めて自信を持たせて長所を伸ばす教育へシフトしています。

【弘兼】確かに人間は褒められたほうが嬉しいですしね。

【永瀬】東進では否定語は使わず、生徒には自ら求め、自ら考え、自ら実行することを基本ルールとしています。

【弘兼】意地悪な言い方をすると、塾・予備校というのは志望校に合格させるための施設です。いわば試験に必要な知識を詰め込めばいい。永瀬さんの話を聞いていると、そこを目指しているわけではない。