ノーキストが言及した国境税調整は米国以外のメキシコなどに工場を有する日系企業にも多大な影響を与えるものだ。共和党保守派の重鎮であるノーキストが同案を推進している政治的・経済的な意味は大きい。

しかし、同税制改革案には連邦議会で敵対する民主党だけでなく、共和党内部からも反対の声が上がっている。特にトランプ大統領と距離がある主流派が影響力を持つ連邦上院に関する税制改革案の可決の見通しは不透明な状況だ。上院の共和党・民主党の議席数は52対48と拮抗しており、民主党議員による議事妨害(フィリバスター)を防止するためには60議席が必要とされる。財政調整措置という手法を活用することで過半数の多数決で切り抜ける方法もあるものの、上院は主流派議員数も多いことから上院共和党議員のうち数名が反対しただけで改革案は通らない状況となる。また、輸入品の値上がりなどにも懸念を示す小売り事業者も少なくない。ノーキストは国境税調整の連邦議会での審議の見通しをどのように考えているのか。

「実は連邦下院議員とトランプ大統領はほぼ税制改革案に同意している。数名は国境税調整に難色を示しているが、『このピース(国境税調整)に他のピースを入れましょう』と主張した際に、システム全体が機能するのであれば修正を受け入れてもいい。税制改革案はこの6カ月間の議論を経て法案が可決することになる。下院とトランプ大統領が同意している現在のパッケージ案になる可能性が極めて高いが、内容変更の可能性が完全になくなったわけではない。ただし、それは国境税調整以外に代替案があればの話だが。国境税調整を批判する人々は、現段階で、領土制課税による数兆ドルの課税という代案しか示せていない」

注視すべきは共和党保守派の動向

CPAC恒例の保守派の関心事を測る「投票(Straw Poll)」を行う人々。(AFLO=写真)

米国の報道によればトランプ大統領は国境税調整について表面的にはいまだ態度保留の状態とされている。しかし、ノーキストによると、トランプ大統領は下院が推進する同税制改革案に同意しているという。では、難航が予想される上院との調整はどうなっていくのだろうか。

「ご指摘の通り上院はこの税制案の議論に対して積極的ではない。しかし、税制改革案は一つのパッケージとして上院に提示されることになるため、改革案全体を否決するのは難しい。トランプ大統領が『I want This.(この法案を通してほしい)』と要請し、下院は『We pass this.(法案を通しましょう)』と応えた。相応しい代案がない状態で上院ができることは、法案を修正することぐらいだろう。上院はこの税制案を積極的に賛成できない根拠として『(輸入品を多く扱う小売り最大手の)ウォルマートは国境税調整が好きではない』ことをあげているが、ウォルマートは一社に過ぎない。米国における数千・数万の会社が下院案を支持しており、それは非常に強力だ」

取材を通して明らかになったのは、共和党保守派に依存するトランプが、大統領選挙後もしこりを残した共和党主流派をどこまで取り込んでいけるかにかかっている。取り込みに成功すれば、国境調整税は間違いなく実現し、メキシコに工場を置く多くの日系企業が大打撃を受けるのは間違いない。

(文中敬称略)

渡瀬裕哉
1981年、東京生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。早大招聘研究員。国内の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニング等に関わる。米国共和党保守派と深い関係を持ち、保守派指導者が集うFREEPACの日本人初の来賓となる。著書に『トランプの黒幕』。