温度センサーはないが、表面温度約210~250度をキープ
煙を出さないようにする一番簡単な方法は、プレートの温度を下げることだ。従来「煙が出ない」とうたうホットプレートはそうなっていたが、プレートの温度を下げて肉を焼くと、見た目は焼けていても、水分が抜けて美味しくない。
「開発で一番苦労したのは、プレートの温度です。プレートの表面温度を250度以下に抑えれば煙は出にくくなることはわかったのですが、210度より温度が下がってしまうと肉の水分が抜けてしまいます。そこで、210度から250度の一定の温度に保つ構造にするため、色々試しました」(福士氏)
やきまるの開発が始まったのは2014年。都心部では、家で焼肉がしたくても高気密のマンションでニオイが気になったり、煙で火災報知器が鳴ったりしてしまう。結局外食にするか、外でバーベキューという人は多く、なかなか家で焼肉を楽しむのは難しかった。そんな状況を変えるために、煙を気にしないで焼肉を美味しく食べられるカセットコンロを作りたいという思いから、開発チームのメンバーでアイデアを出し合ったという。バーナーの直径、バーナーからプレートまでの距離、発熱量、組み合わせを変え、試験機を作って実際に肉を何度も焼いた。
Point1:温度の“低さ”
「焼肉といえば、強火でサッと炙るようにして食べるのが美味しいと思いますよね。しかし家庭用のプレートでは逆だということに気付きました。現在イワタニで売れ筋の汎用カセットコンロは、だいたい2500~3000kcal/h。しかし色々試した結果、やきまるの発熱量は900kcal/hに設定しました」(福士氏)
「kcal」は、ガスコンロの火の強さを表す単位であり、ガスが燃えて発生する熱の量だ。数値が大きいほど、ガス消費量の値が大きくなるので、火力も強いということになる。イワタニではやきまるの他にも特化型のカセットコンロを出しているが、「たこ焼器 スーパー炎たこ」は1500kcal/h、「炉ばた焼器 炙りや」は2000kcal/h。たこ焼器や炉ばた焼器と比べると、やきまるは900kcal/hなので明らかに発熱量が低いが、「薄い焼肉用の肉を高火力のカセットコンロで焼くと、焦げて煙が出てしまいます」と福士氏は語る。
ただし、温度が低過ぎると、ほどよい焦げ目がついた美味しい焼肉には遠い焼き上がりとなる。そのボーダーラインは210度。つまり、カセットコンロを使って煙を出さず、美味しく焼ける最適な温度は210℃から250℃の間と限られているのだ。
そこで、バーナーやプレートの大きさ、火力などをすべて見直し、バーナーとプレートの間に適度に熱がこもるようにバランスも調整した。最大火力のまま加熱を続けても温度が250℃以上にはならず、210℃以下にも下がらない一定の温度を保つことができる。焼肉をしながら火力を調整する必要がなく、常に最大にしておけばベストなプレートの温度で焼肉を楽しめるのだ。
Point2:肉から落ちた脂の通り道を作る
もう一つ、煙を出さないための大事なポイントがある。焼いた肉から出る脂を火に当てないようにすることだ。プレートに肉から出た脂が溜まって焦げることにより、煙が出やすくなる。それを防ぐために、効率よく脂を落とす通り道を作っている。
プレートは中心部が少し高くなっており、中心部は穴がなく、外側だけ開いている。肉を焼いて出た脂は、中心から外側に向かって落ちていくのだが、プレートには溝があるので溝に沿って脂が落ちていく。そして、落ちた脂は、あらかじめプレート下の水皿に注いでおいた水の中に溜まる。このような機構にすることで肉の脂がプレートに残らなくなり、脂が煙化しにくくなるのだ。
また、プレートの裏側を見ると、中心部分の直火が当たる部分は、厚さ約7mmの壁がバーナーを囲んでいる。これは、脂が落ちたときに、バーナーにかからないように防波堤の役割を持っている。プレートの裏側は、徹底的に「火に脂を近付けない」仕組みだ。
プレートを外して中を確認しても、他のガスコンロとは大きく変わったところもなく、シンプルな構造に見えるが、実際のところは煙が出ないように大きさも含めて全て計算されて作られているという。
「この機構は特許出願中ですが、新たに何か部品を開発したというわけではありません。今まである技術の組み合わせを変えただけで、煙を出さないカセットコンロが誕生したのです」(福士氏)