2016年12月発売の高級炊飯器「バーミキュラ ライスポット」(以下、ライスポット)がヒットしている。コンセプトは「世界一おいしいご飯が炊ける、究極の炊飯器」。実勢価格7万9800円、税込みで8万円を超える高額商品ながら、本稿執筆時点で約2カ月待ち。月産5000台体制で生産を進めているが、納期待ちがなかなか縮まらない状況である。
高級炊飯器と書いたが、発売元の愛知ドビーは家電メーカーではない。鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を販売している鋳造メーカーだ。ライスポットは鋳物ホーロー鍋と専用のIHヒーターを組み合わせたもので、ご飯を炊くだけでなく、煮物、無水調理、炒め物、低温調理といった自動調理が可能なのが大きな特徴。ここ10年ほど、家電メーカー各社から10万円を超える高級炊飯器が販売され、それぞれに人気を博しているが、その中でもライスポットは異色かつ注目の存在といえる。
筆者も2016年11月の発表会に出席し、ライスポットで炊いたご飯を試食した。その味と、炊飯器としてだけでなく調理器具としての大きな可能性を感じたことから予約受付開始直後に予約したが、入手できたのは12月末だった。今は自宅で毎日食べるご飯を日常的に炊いているだけでなく、「無水カレー」や「ローストビーフ」などさまざまな料理に活用している。
元々、水を使わずに食材と調味料の水分だけで調理する「無水調理」が可能な鋳物ホーロー鍋として、バーミキュラは料理好きの主婦を中心に人気を得ていた。それがどのように調理家電に進化していったのか。また、開発の途中でさまざまな企業に協力を得るために作ったという企画書とはどのようなものだったのか? ライスポットの開発を指揮した、愛知ドビー代表取締役副社長の土方智晴氏に聞いた。
・普段土鍋でご飯を炊いている筆者も満足のおいしいご飯が炊ける
・無水鍋として評価の高い「バーミキュラ」に専用のIHヒーターをセット
・料理をつくる調理器具としての高い魅力
・バーミキュラにはできなかった「炒め」「低温調理」が可能に
・トップシェフが店舗で採用
グローバル展開するために「家電化」した
まずは、どのような経緯でライスポットを開発することになったのか。そこから話を始めたい。
愛知ドビーが、鋳物ホーロー鍋のバーミキュラを発売したのは2010年2月。たちまち人気となり、月産台数は当初の50個から1000個、2000個と順調に増えていった。当初は増産を進めるだけで手いっぱいだったが、2013年初頭に視野を広げようと考え、フランスではトップシェフ、米国では主婦を対象に、バーミキュラについての調査を行ったという。
「(バーミキュラを実際に使った人たちから)食材の味を引き出しておいしく調理できると評価はしてもらえましたが、フランスも米国も、鋳物ホーロー鍋の激戦地。価格も安く出回っています。バーミキュラをそのまま持っていっても、海外で成功するのは難しいだろうという結論になりました。バーミキュラは密閉性が高いのが特徴ですが(注:そのためには精密な鋳造技術が必要)、そのためにコストがかかってしまいますし、輸出コストや関税、為替の問題もあるために、勝負できないだろうと考えたのです」(土方副社長)
また、海外調査で味わったのが「火加減を教えることの難しさ」だった。バーミキュラの無水調理は、弱火でじっくりと熱を加えることが重要なのだが、「弱火」や「ごく弱火」といった感覚が人によって異なり、説明するのが難しい。せっかく「世界一の鍋」と自信を持てる鍋ができあがっても、使う人が火加減を間違えれば、料理がおいしくならなくなってしまう。
こうした経験から、「バーミキュラ専用のIHヒーターを開発し、鍋とヒーターをセットにする」という考えに至ったという。
「米国やフランスも含めて、もっとたくさんの人にバーミキュラでの調理を楽しんでいただくためには、一番のキーである火加減のところまでセットしてあげる必要がある。そう思ったのです」(土方副社長)