企画書は人の心を動かし、協力者を増やすためのもの

ここでようやく企画書が登場する。

「ライスポットの開発初期には、企画書はありませんでした。バーミキュラ開発時には書いたんですけど」と土方副社長は笑う。

元々「ドビー機」という繊維機械を作っていた愛知ドビーは、ドビー機製造に必要な鋳物製造と機械加工の部門を持っていたため、技術的な難易度の高い大型船舶の油圧部品などを下請け業者として製造していた。業績は右肩上がりで推移していたが、不況の折りには真っ先に切られる不安定な立場から脱却するには自社がメーカーになるしかない。鋳造部門と機械加工部門がある立場を生かした製品ということで土方副社長が目を付けたのが「鋳物ホーロー鍋」だったというわけだ。

「社長(土方副社長の実兄、土方邦裕氏)は最初はやりたくないって言っていたんですよ。『鍋なんて作ったって売れないだろう』と。一番の説得相手が社長だったため、バーミキュラのときは企画書を書いて、『こういうものを作れば売れるからやろうよ』と説得したのです。それで『これならいいね、やろう』となりました。でもライスポットは最初から作ろうという話になっていたので、当初は書いていなかったのです」(土方副社長)

社長と副社長の思いは一致していたため、企画書を書く必要がなかった。しかし、開発当初に協力してもらっていた業務用調理器メーカーとは袂を分かつことになってしまう。

「元々は部下と2人でやっていたくらいなので、企画書は必要ありませんでした。でもちゃんと思いを伝えないと、いろいろな人に協力してもらえない。そこでこの企画書を書きました。僕はサラリーマンをしていたときから、協力者を増やすための活動が企画書だと思っています。いかに人を動かすか、僕に賛同して一緒に動いてよ、そういう思いを伝えるのが企画書だから、すごく重要だと思っています。それなら最初から書けよって話なんですけどね(笑)」(土方副社長)

他社の協力を得ながら、自分たちでライスポットを製造・販売しよう。原理試作などで協力してくれていた基板メーカーはすでに名乗りを上げていたが、製品の外装やヒーター部分、品質検査など、他にもさまざまな企業の協力を得なければならない。そのためには、製品にかける“思い”を共有してもらうため、ライスポットのコンセプトをきちんと伝えることが重要だった。

ライスポットの企画書は、商品のコンセプト説明から始まる。「最高の炊飯器でありかつ調理器具であること」がつづられている。

「まず高いレベルに意識を持ってもらうため、『世界一の炊飯器を作りたい』という思いを書きました。でももう1つ、『世界最高の鍋を作りたい』というのが根本にあります。よりたくさんの人に料理を作ってほしいので、そのために熱源を作るわけです。ですから調理機能は絶対に外せません。それを分かってもらうために明文化しました。炊飯だけでなく、無水カレーやミネストローネ、肉じゃがなどの無水調理のほかに、煮る、炒めるといったバーミキュラのすべての調理がこれ1台で可能になる。それがライスポットのコンセプトです。企画書ではまずここを明確にした上で、『我々は絶対に変えないよ』という意思表示をしました」(土方副社長)