「ブラック」でなくとも結果を出す時代
トレーニングのための素晴らしい環境が無くても、発想を変えて全国大会で結果を残した高校があります。本年度の高校選手権で見事優勝した青森県代表・青森山田高校です。同校のある青森は雪の多い地域。1年の3分の1は雪でグラウンドが覆われています。高さ2.44メートルもあるサッカーゴールの半分以上が、雪で埋まってしまうことも。これではまともにサッカーができません。
しかし、青森山田の生徒たちは悲観的ではないと、黒田剛監督が語ります。
「本校の生徒たちは、雪国という『ハンディキャップ』を嘆くのではなく、割り切って『味方』につけようと考え方を改めるのだ」(書籍『勝ち続ける組織の作り方』より)
雪が多くて通常の練習ができないサッカー部は、1メートルほど雪が積もったグラウンドで繰り返しゲームを行います。50人対50人でボールは3つ。2点先取すれば勝利といった具合に、オリジナルルールでゲームに挑むのです。そんな雪上でのトレーニングが続くと、雪が溶けるころには足腰が強くなっている、という具合。
「厳しい環境であればあるほど、人は成長できるということを証明してくれる」と、黒田監督は説きます。
どんなに厳しい環境下でも、「青森山田でサッカーがしたい」と同校には全国各地から生徒が集まります。そして達成した「県内17年間無敗」「高円宮杯U-18サッカーリーグ2016チャンピオンシップ優勝」「第95回全国高校サッカー選手権大会優勝」の快挙。素晴らしい実績です。
厳しい環境でただ耐えるのではなく、合理的に考えて、ハンディキャップすら味方に変えるといった柔軟性を持つ生徒が増えてきている──先に挙げてきたような事例から、そんな現状が浮かび上がってきます。そこには、坊主頭も試合後のダッシュも存在していません。やみくもに質よりも量にこだわる、「ザ・高校サッカー」の姿は、もはや過去のものなのです。自身で状況を把握し、何ができるかを考え、最適な方法を探す。そのためには客観的に自身をとらえる姿勢が不可欠ですが、日々のトレーニングや監督の導きを通じて、自然と身につけているのでしょう。
国学院久我山や青森山田といった高校が全国大会で結果を残したことで、多くの学校がこれにならうことも想像できます。ブラック部活よりも、ブラック部活ではないほうが結果を残せる。そうした風潮がさらに強まれば、多くの学校が脱・ブラック部活へシフトしていくのではないでしょうか。
そして、そんな環境で育った彼らを、社会はどう迎え入れるのか。すなわち、「ブラック部活」を知らない優秀な生徒を、「スポ根」「体育会系」しか知らない企業側が、どうつなぎとめて、活かすのか。企業の人材活用も、時代に合わせて考え方を大きく変えていく必要があります。「ホワイト部活」で成功体験を積んできた若者への対応を、誤らないようにしたいところです。