思い通りにならないだからこそ熱くなる
H-IIAは5号機まで連続して成功し、03年11月の6号機で失敗する。
「合計3回失敗してます。最初の失敗を経験するまでは、ロケットなんて失敗するものではないと思っていました。しかし、失敗から多くを得たのも事実です。ロケットは一発勝負。地上で実験できない部分もあり、打ち上げてみないとわからないことが多いのです」
前村はロケットのことを「駄々っ子のよう」と表現する。「ロケットは思い通りにならないんです。打ち上げの当日でさえ、思いもよらないことが起こります。だからこそ熱くなるんですよ。なんとかして打ち上げてやろうとね」。
H-IIAは14回の打ち上げに対し、成功は13回(打ち上げ成功率92.8%)。75年のN1からの累計では45回中、42回(同93.3%)。これは欧州各国共同で設立したアリアンスペース社のアリアン5の88.2%(07年まで)と比較しても、悪くない。ただし、日本の打ち上げ回数は圧倒的に少ない分、信頼性の点で課題が残る。アリアンは1~4で116回、5だけでも07年までに34回も打ち上げている。
三菱重工のロケット事業は、売上高の1%にも満たない。収益ではなく、技術のためにという考え方だ。同社の社長と会長を経験した西岡喬・三菱重工相談役(三菱航空機会長、三菱自動車工業会長なども兼務)はいう。「航空機、原子力発電、ロケットをつくれない国は、一流国にはなれない。日本が技術立国として生き残るには、これらは必須です」と。
先端技術であるロケットは、他の産業への波及効果が大きい。自動車のエアバッグシステムも、ロケット技術からの転用だ。もちろん、技術そのものが進化する。新技術の導入は、毎回求められる。だが、一発勝負なだけに新技術採用のリスクは高く、「10の能力があれば7で使うなど設計に工夫が必要です。二重、三重のバックアップは基本」となる。