小売り不況の中、「売上目標20%超」と業績好調なのがディスカウントストア「ザ・プライス」。が、その裏にはトップの厳命を受け、わずか60日で開業を果たした“スーパーな男”の奮闘があった。
北京、横浜、そして今度は西新井へ
それは突然の辞令だった。
08年7月末のことだ。大型ショッピングセンター、ららぽーと横浜内のイトーヨーカドー店長から新業態開発プロジェクトのリーダーへ。渡辺泰充は急な異動に首をかしげた。新店をスタートさせて1年半も経たない。通常は3年ぐらい務めて移る。それが「明日からすぐ次の仕事にとりかかれ」との命令だ。その内容を聞いて、さらに驚く。
「ディスカウントストアですか」
無理もない。セブン&アイ・ホールディングスの総帥、鈴木敏文会長兼CEOは「日本市場では低価格だけでは難しい」が持論だ。その当人から「ディスカウントストアで利益の出る店をつくるように」と指示が下りた。上層部も一瞬耳を疑ったという。
ただ、鈴木流経営学の基本は「変化対応」だ。市場では所得が伸び悩む中、値上げラッシュが続き、顧客の節約志向が高まった。その変化に対応するため、生活応援型ディスカウントストアを用意する。店名は文字通り「ザ・プライス」。
指示が出たのが6月。上層部は年内が目途と考えたが、7月会長から、「8月末開業」の厳命が下る。急きょ、各部から精鋭が“召集”された。店舗スタッフと一緒に店を立ち上げ、軌道に乗せる特殊部隊だ。そのリーダーとして白羽の矢が立ったのが渡辺だった。