利益を生み出す“車の四輪”とは
8月28日の開業まで1カ月もない。チームは本社の各本部の全面協力を得て突貫で準備を進めた。商品数は従来の半分に絞り込む。精肉は牛や豚を1頭丸ごと仕入れ、青果や鮮魚は産地や市場から直接買いつける。形は不揃いだが品質は変わらない「規格外」も扱う。
牛乳は12本入りケースをそのまま横向きに重ねる。補充に2本ずつ並べたのが1回ですむ。品目を絞った分、商品は単品でケース一面に並べ、量感で訴える。カップ麺も並べずにケースに大量に入れ込む。陳列棚は高さ1.8メートルと従来より15センチ高くし、上に在庫を箱ごと積む。チラシも週3回を1回へ。社員数を減らし、パートを戦力化する。
数々のコスト削減策を講じ、価格帯をヨーカドーより全体平均で1~3割程度安くする食料品中心のディスカウントストアを常識外れの短期間でつくり上げた。開業を控えて、渡辺は店長以下、社員、パートを集め、思いを語った。
「この店を再生させるためには、皆さんが培ったキャリアが必要です。皆さんが本当に情熱を持って、力を発揮すれば、勝ち組になれる。私はこのプロジェクトを絶対成功させる自信があります」
目の前には懐かしい顔もあった。精肉売り場のパートは新任マネジャー時代に助けてくれたパートの娘さんだった。
いよいよ開業当日。店の前には開店前から長蛇の列ができた。テレビや新聞各社が取材に押しかけ、国内最大流通企業がディスカウント事業に参入することへの注目度の高さを物語った。
「課題はこれからだ。すべてはパートの人たちの働き方にかかっている」。渡辺は来店客を迎えるメンバーたちを見ながら、自らを奮い立たせた。商品構成や陳列方法などは同業者にすぐ真似される。どこで差別化を図るか、大きいのは人の部分だ。小売業はマンパワーが成否を分けることを若いころから痛感してきた。