「おじいちゃんが、物を捨て始めた」

片づけの相談を受けた、とあるご夫婦に、頑なに物を捨てたがらない高齢の父親がいました。私は、前述のように一切物を捨てない代わりに、バラバラにため込まれた部屋の中の物を、ただそろえるだけにしましょう、とアドバイスしました。

しばらくして、そのお宅を訪ねると「先生、びっくり」と奥さん。「おじいちゃんが、物を捨て始めた」と言うのです。

片づけようとする子への反発心や、物を捨てられない心の呪縛が解ければ、後は一つ一つを相談しながら、一緒に処分法を考えていけるようになります。

親が日々の暮らしの中で、何に困っているかを聞き、それを改善していくのもよい方法です。そうして話を聞き、親の生活を一緒に改善していく中で、それまで知らなかった親の思い出話や、家族への思いやりに触れる場面がよくあります。親が生きてきた道を理解する意味で、それは貴重な体験にもなります。

きっかけづくりの一つとして、実家に置いたままにしている自分の物を引き取るのもよいと思います。実家を物置代わりにして、私物を預けっぱなしにしてはいませんか? 20~30代の男性に、そういう方が多いように見受けられます。

実家に放置された子の持ち物は、親には「触れがたい物」「扱い方のわからない物」。それらがなくなるのも、親にとっては好ましい変化であるはずです。空いたスペースの使い道から、片づけの相談に入っていくこともできるかもしれません。

親が好ましいと受け入れてくれる、小さな変化を考える。それは、停滞しがちな高齢者の生活にちょっとした刺激を与えること。新鮮な刺激は、人の活力の源泉でもあります。決して無理強いせず、片づけに入るきっかけづくりをいろいろと工夫してみましょう。

安東英子
「日本美しい暮らしの空間プロデュース協会」理事長。福岡県の地元TVで13年間リフォーム担当。2014年より東京を拠点に。片づけ・収納アドバイス・リフォーム等々の実績5000軒以上を誇る。
(構成=高橋盛男 撮影=的野弘路、石橋素幸 写真提供=木下 修)
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