「意地汚いことをするのはお年寄り」

実家の片づけは、単なる物品の整理ではない。そこに注がねばならない気力・体力・資金が普通ではすまないことに、世間はようやく気づき始めた。

「私はよく『ハラを括りなさい』と言うんです」――日本美しい暮らしの空間プロデュース協会の安東英子理事長は、自身の数多くの片づけアドバイスの経験からそう断じる。

「片づけを甘く見てはいけません。親と大ゲンカする覚悟がないとできません。『片づけは私が死んでからにして』という親のセリフは耳にタコができるぐらい聞きましたが、売り言葉に買い言葉で『じゃあ、今すぐ死んで』って言っちゃった方も」

親子の縁が切れるケースもあるというのだ。無理もない。久々に訪れた実家の収納に、たとえば賞味期限切れの食材、アイスクリームのカップ、空のペットボトルといった理解不能の物品が大量に詰め込んであって、子がそれを捨てようとすると、親は頑強に抵抗するのである。

端的にいえば、新聞にはさみ込まれた広告紙を保管してメモ用紙代わりに使う習慣が身に染みている世代と、それを単に「セコい」と感じる人とが折り合いをつけるのは簡単ではない。

※アンケート調査概要:「実家の親の問題」について編集部とアイブリッジで実施。40歳以上の男女100人より回答を得た。調査日:2016年7月25日

今回、片づけとそれにまつわるトラブルをヒアリングしているうちに、筆者は大地震の被災地を取材した際の出来事を思い出した。

避難所となっていた学校の体育館では、年齢・世代もバラバラの被災者の方々が、毛布や段ボールを分け合いながら、長期間ともに過ごしていた。

脱いだ靴を手に、段ボールだけでプライバシーを保った体育館の中を遠慮がちに歩いたが、外に出たところで、30代と思しきボランティアの女性が「物を盗ったりとか、意地汚いことをするのはだいたいお年寄り。物への執着がすごく強い」と、ひそひそとだが強い口調で憤ったのに、思わずたじろいだのだ。

被災地だけではないだろう。平均寿命が延び、80代・90代の老人が珍しくなくなった今は、第二次大戦後の焼け野原から高度成長期、バブル、「失われた20年」……と、まったく異なる原体験を持つ数世代が、そこで培われたまったく異なる物・カネ観を抱きつつ、同じ時間を共有しているのである。

もちろん、物を減らしてシンプルに暮らす老人も存在するが、別々に暮らしているうちは直視せずにすんだ物・カネ観の違いがむき出しでぶつかり合う。それが「実家の片づけ」なのである。

ようやく捨てる段階に至ったとしても、処理費用はしばしば目を疑う金額に跳ね上がる。根拠の薄い楽観論で見て見ぬふりをしているうちに、正念場はすぐに訪れる。なるべく早く動き出しておいたほうがいい。

【1人1日当たりのごみ総排出量】
▼多い(単位:g)
1位 福島 1094
2位 青森 1069
3位 群馬 1059
4位 大阪 1051
5位 新潟 1044

▼少ない(単位:g)
1位 熊本 845
2位 沖縄 853
3位 長野 862
4位 佐賀 873
5位 滋賀 876

出典:都道府県別ごみ処理の現状(2015)

安東英子
「日本美しい暮らしの空間プロデュース協会」理事長。福岡県の地元TVで13年間リフォーム担当。2014年より東京を拠点に。片づけ・収納アドバイス・リフォーム等々の実績5000軒以上を誇る。
(的野弘路、石橋素幸=撮影)
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