「たまには女性」発言で私が伝えたかったこと
都知事選挙のとき、私は「たまには女性にしたらいい」と申し上げました。これは「女性でなければいけない」という主張とは違います。日本は男性中心という前提を疑わずに社会をつくってきました。そうした「男性の目線」のままでは、直面している課題を解決するのは難しい。スマートに課題を解決するには、「女性の目線」が有効な選択肢になるのでは、という提案なのです。そうした多様性のもたらす価値を、私はダイバーシティとして訴えています。
もちろん女性のもっているエネルギーを眠らせたままにしているのはもったいない。今回の予算案には女性の就業促進を盛り込みました。結婚・出産のため、女性の就業率は25~44歳について仕事をもっている率(有業率)が下がる傾向にあります。2012年時点で71.3%の有業率を、22年までに78%に引き上げます。
また働く環境を整備するため、建設現場での仮設を含む女性用トイレの整備など、女性が働きやすい環境整備を支援します。
女性起業家も増やします。現在、起業家に占める女性の割合は30%程度ですが、アンケートを取ると起業の理由として「性別に関係なく働ける」と回答する女性が少なくありません。新年度に新規で立ち上げる「女性ベンチャー成長促進事業」では、東京から全国、海外へ事業拡大を目指す女性起業家に向けて、海外派遣などの支援プログラムを提供します。
丸の内で運営する「TOKYO創業ステーション」では、キッズスペースを設け、子育て中でも相談に乗りやすい環境を整えます。事業計画作成の支援や女性に特化した少人数制のセミナーも提供し、女性の起業に対してきめ細かな支援をします。この結果、20年度には年間500人の女性起業家が生まれる環境を目指します。
ダイバーシティのため、障がい者の就労促進にも取り組みます。新規事業をはじめ24億円をかけてソーシャルファームの仕組みづくりを支援します。ソーシャルファームとは「労働市場で極めて不利な立場にある人々あるいは障がい者を雇用する組織体」で、企業的経営手法を活用して障がい者が働く場を創出するものです。
一般の企業と同様に、各々が個別に調達した資金を原資にビジネスを展開するため、従来型の施設にくらべて税金の負担は少なくなります。障がい者にとっても、受け身の就労ではなく、主体的な労働者として自立することが可能になります。同時に、そういった障がい者雇用に力を入れる企業を表彰することで、起業が社会から評価され、障がい者の雇用の促進と定着に向けた取組を推進します。
ダイバーシティの活用は、民間では当たり前です。私が社外取締役を務めていた仏ルノーのトップ、カルロス・ゴーン氏は両親がレバノン人でブラジルに生まれています。ゴーン氏は「企業の強さはダイバーシティの中に眠る」と言っています。性別や国籍にとらわれない組織づくりによって、ルノー・日産は競争力を高めており、私もたいへん刺激を受けました。民間での当たり前を、都政でも当たり前にしていきます。
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。