人類という動物の行動を知ることから

では、本当に「当たる」見通し、現実的な歴史観を身に付けるには、何から学んだらいいか。

すでに名著として知られる『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』といったジャレド・ダイアモンド氏の著作は、地理的・生物学的要因がいかに歴史を左右するかを証明している。歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏は、国家や民族の消長を家族制度の分類によって鮮やかに解説する。トッド氏の最近の著作『家族システムの起源』はその集大成だ。彼らの本を読むことで、人類という動物はどのような原則に導かれて行動し、歴史をつくっていくのかがわかるようになる。

最近の本ではチャールズ・C・マン著『1493――世界を変えた大陸間の「交換」』も、グローバル化の本質を考えさせられて秀逸だ。ロジェ・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』をはじめとする大河小説にも、歴史を貫く原則が描きこまれている。

映画ではカンヌ映画祭のグランプリ受賞作に注目したい。イラン、トルコなど新興国の作品が受賞するときは、決まってその国の社会がテークオフする時期である。トッド氏の学説によれば、社会が成熟化するに従い高等教育への進学率が上がり、その波が女子に及ぶと社会の出生率が低下する。そこからある程度の未来が見えてくる。

さて、教養を深めるうえで邪魔になることにも言及しておこう。本来、映画だろうとミステリ小説だろうと、雑多な情報を入手することは教養を深め、歴史観を持つうえで歓迎すべきことである。鍵は、できるだけ雑多な情報に触れることである。

だとすると、内輪の飲み会ばかりを開いていても発展はない。もっと知らない人、異業種の人と話すべきである。移動中に読書ができないという意味で、クルマの運転にも益がない。最近は駅から遠い住宅地から都心への人口回帰が起きているようだが、徒歩25分の家から駅まで歩くのも、目から雑多な情報を仕入れられるので悪いものではない。また運動にもなる。「駅近」物件にこだわらなくてもいいではないか。

そして、トランプ氏のことを少し。歴史の道筋を読むには、自分の身の回りで起きている小さな変化を、書物などで得た歴史観に沿って、できるだけ単純化して解釈するのがセオリーだ。しかし、単純化するときに、「短絡化」して考えてはいけない。トランプ氏の公約は短絡の最たるものだ。これはやはり、教養人としてはいただけない態度である。

▼「教養を高める」ためのアドバイス

▼今年「読むべき本」リスト6


1. 世界史と日本史の教科書
2. 『銃・病原菌・鉄』
3. 『家族システムの起源』
4. 『1493』
5. 『チボー家の人々』
6. カンヌ映画祭受賞作(映画)

教科書から離れ独自の歴史観を得るにはこれらの書物を読むべし
 
▼今年「やめるべきこと」リスト5


1. 教科書の記述を信じ込まない
2. 内輪の飲み会を控える
3. 「駅近」にこだわらない
4. クルマの運転を控える
5. 短絡化して考えない

いつも身近なメンバーと飲むのではなく新しい人と出会おう
 
(面澤淳市=構成 永井 浩=撮影 AFLO=写真)
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