心理学者の本、専門家の本――世界のエリートたちはどんな本を読んでいるのか? 『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか? 』の著者である戸塚隆将さんが、読み方のポイントとともに解説します。

ノウハウ本よりも、データで裏打ちされた骨太本

日本では『ハーバードの~』『スタンフォードの~』等がトレンドに。戸塚さんによると「邦題は学校名が前面に出ていますが、アメリカのエリートは純粋に心理学者や専門家の本として読んでいます」とのこと。『ビラヴド』は戸塚さんがハーバード留学時代に韓国人の友人がすすめてくれた小説で、黒人の差別をテーマとしたノーベル文学賞受賞作家の代表作。「ビジネス知識だけではなく社会問題の根っこの部分を知っておくことが大事」(戸塚さん)

日本では、海外のベストセラーの多くがすぐに翻訳出版されますので、私たちに聞き覚えのあるベストセラーは、世界のエリートたちに読まれていることが多いです。たとえばシェリル・サンドバーグさんの『リーン・イン』や綿密に事業計画を立てず素早く起業することを勧める『リーン・スタートアップ』(エリック・リース) などです。トマ・ピケティさんの『21世紀の資本』も入るでしょう。

心理学者などがデータを用いて解説する本も人気。ケリー・マクゴニガルさんの『スタンフォードの自分を変える教室』など。

女性エリートに好まれるのが『サード・メトリック』(アリアナ・ハフィントン)。著者はハフィントンポストの編集長で、経営者でもある女性です。競争社会を走り続けてきた彼女が、家族の幸せや自分と向き合うことの大切さを語ります。女性は男性が成功と考える路線に乗っても幸せになれるとは限らない。女性の成功には多様性があると説く点に、女性エリートたちはひかれるのだと思います。

私に気づきを与えてくれた古典を挙げるとすれば、ドラッカーの『経営者の条件』です。原題は『The Effective Executive』で、邦題のように経営者向けの本ではなく、ビジネスパーソンがどうすれば成果を出せるかがテーマで、時間の管理法などが参考になります。最近読んでいるのはアメリカの元財務長官、ヘンリー・ポールソンさんの『Dealing with China』。翻訳本が未刊なので原書です。私がかつて勤務したゴールドマン・サックスの元CEOで、その時代、中国とのビジネスを重視していました。その人がいまの中国をどう見ているか興味があったのです。

最後に読み方にも工夫があります。本を読んだ時間の3倍考えること。これは大前研一さんの言葉ですが、私のビジネススクール時代の体験が重なります。討議して何を言うかが重視されました。いかに課題図書を熟読しても意見を言わなければ存在しないのと同じ。1章読んだら手を止め、本の内容が自分にとってどんな意味があるかを引き出す習慣をもつと、読書がぐんと生きてきます。

戸塚隆将
シーネクスト・パートナーズ代表取締役。慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス、ハーバード経営大学院(MBA)、マッキンゼー&カンパニーを経て、2007年より現職。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか? 』。

構成=大下明文 撮影=遠藤素子