税理士の「そろそろ覚悟を決めて」に折れ入社
自動車部品の製造を手がける中小企業「松本興産」の2代目社長と結婚し、3年間の専業主婦生活を経て同社の取締役に就任した松本めぐみさん。結婚前は半導体メーカーや外資系ホテルで社員として働いていたが、今回はいきなり経営層、しかもまったく未経験の総務・経理を監督する立場となった。
入社のきっかけは、顧問税理士の勧めだったという。「中小企業は経理に信用できる人を置くことが大事だから、奥さんもそろそろ覚悟を決めて経営に入りなさい」――。そう聞いた瞬間、松本さんは思わず「え~、無理です」と言ってしまったという。
「夫と一緒に経営するとなると、ケンカが増えそうで嫌だったんです(笑)。でも、税理士さんの言うこともわかりますし、あとはやっぱり夫への愛ですよね。以前から経営に関する苦労話をよく聞いていたので、何とか私が助けになれたらと思いました」
話しかけても無視
松本興産の拠点は、埼玉県秩父郡にある人口1万人ほどの小さな町。会社は創業50年以上の地元企業。そこに突然“東京から来た社長の奥さん”が取締役として入ってきたのだ。社員の反応は歓迎とは程遠いものだった。
経理担当者には初日から無視された。
当時、同社の帳簿は手書きのノートで、担当者が自分独自のスタイルでつけていたため、ただでさえ会計知識のない松本さんにはまったく読み解けなかったという。教えてもらおうと思って話しかけても振り向いてもくれない。見かねた隣席の社員が取りなしてくれて、ようやく会話ができるようになった。
松本さんは「みんな、私が何か面倒くさいことを始めるんじゃないかって、脅威を感じていたんだと思う」と振り返る。
「無視する気持ちもわかるんですよ。私が来たことで今までのやり方が変わったら、たいていの人は自分が否定されたと感じて傷つきますよね。わかるんですが、それでも結局、手書きの帳簿は廃止してすべてクラウド化しました。嫌われても仕方がない、そうするのが会社のためだと思って」