ギャンブルに見るリスク管理の違い

また、富裕層は「お金を払う」ことだけでなく、「労力や手間をかける」「時間を使う」といった日常のさまざまな行動も、投資という視点から決めている。

特に時間の使い方にはシビアで、自分のオフィスや勤務先のそばにマンションを持っている富裕層の方を、私は何人も知っている。彼らにとって自宅の購入は、仕事場との間を往復する時間を“買う”ための投資なのだ。単に「庭付きがいいから」と1日何時間もかけて、郊外のマイホームから通勤する一般庶民の人たちとは発想が違う。

富裕層の特徴の一つに、負けても「大負けしない」ということがある。痛手が小さいうちなら、敗者復活しやすい。だから、投資する際はリスク管理に細心の注意を払う。資産運用の世界には、株などの金融資産が10%値下がりしたら損切りする「10%ルール」がある。10%程度の損失なら、ほかの投資である程度カバーできる確率が高いからだ。

たとえば、富裕層の多くはギャンブルも大好きなのだが、賭ける金額をあらかじめ決めている。たとえ負けていたとしても決して深追いせず、自分が決めたリミットの金額に達すると、引き上げてしまう。統合型リゾート(IR)整備推進法成立でギャンブル依存症が問題になったように、ギャンブルには自制心を失わせる魔力がある。富裕層はそれもわかっていて、自らに縛りをかけているのだ。一方、一般庶民の人たちは負けが込むほど「次は必ず勝つ」と熱くなってしまい、大負けするケースが多いようだ。

リスクは金銭面にとどまらない。実力や実績がある人でも、些細なトラブルが原因で人生を棒に振ってしまうケースがあり、富裕層はそうしたリスクを避けるための投資にも積極的だ。

交通手段なら、一般庶民の人は主に電車やバスを使うが、富裕層はタクシーを愛用する。乗車中に仕事ができるというメリットもあるが、不特定多数の人が乗る電車のように、痴漢に間違われたり、酔っ払いとの暴力沙汰に巻き込まれたり、はたまたスリに財布を盗られたりといった、トラブルに遭遇する心配がないからだ。

教育に対する考え方も一線を画する。一般庶民の人は「子どもが元気に育って、成人してくれれば御の字」と考えるかもしれないが、富裕層はそうはいかない。子どもに親を凌ぐほどの「稼ぐ能力」がなければ、親が築き上げた資産を守ることは難しいからだ。

現行税制では相続税の最高税率は55%。過去最高の遺産総額は石橋幹一郎・元ブリヂストン相談役の約1646億円で、遺族が納付した相続税額は約1135億円にも上る。だから、子どもにできるだけよい教育を受けさせて、少しでも稼ぐ能力を高めるように惜しみない投資を行う。

すべての行動を投資と考えるというと、「勘定高い功利主義者」と思うかもしれない。しかし、一般庶民の人たちも日々の生活のなかで、無意識のうちに投資とリターンを天秤にかけ、できるだけムダ遣いしないように「合理的な判断」をしているはずだ。富裕層はそうした合理的な判断を強いマインドで、ブレずに幅広い分野で徹底して行っているにすぎない。庶民の人でも投資マインドを意識的に持って、自らの行動を変えていけば、富裕層に一歩でも近づくことができるだろう。

ZUU社長兼CEO 冨田和成
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。

 

(野澤正毅=構成 加々美義人=撮影)
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