富裕層は「欲求に抵抗する時間が少ない」
これまで本連載で、ごく普通のビジネスパーソンが種銭のない“ゼロ地点”から富裕層になろうとしたとき、「欲を制する」ことが何より重要になると繰り返しお話してきました。
過去の話のポイントをかいつかみますと……。
●安田財閥の祖、安田善次郎が語った「勤倹と節約を守り、冗費を節約し、贅沢を慎み、財を蓄えることは、人としてぜひ行うべきところ」に代表される制欲に対する考え方を習得すべし。
●4歳児が目の前のマシュマロを食べることを我慢した方法に大人も学ぶべし。
といったものでした。そうした心持ちやスキルを身につけることで、コンビニ店や、コーヒー店での習慣的な“浪費”による資産の減少を防ぐことができます。そしてそれは、薬物使用やギャンブル、不倫などによって資産とキャリアを全喪失するような悲劇を防ぐ手だてともなります。
僕のここまでの話のまとめとしては、結局のところ、欲を制しないと資産形成にマイナスの影響を与える、ということ。そんな落とし穴が人生にはたくさんあるということを訴えたいのです。
欲を制するための方法もいくつかお伝えしました。例えば、目の前に欲しいモノがあっても、それを見ない(マシュマロを見ない)。また、消費意欲を刺激するモノ・コトに出合ってしまったときのために、事前に「買わないようにする手順」を決めておく(イフ・ゼンプラン)……。(http://president.jp/articles/-/17608)
しかし、これらの対処法に対して、「それは誘惑に打ち勝つ自制心があるのではなく、単に誘惑から逃げているだけではないのか?」と感じる方もいるかもしれません。
そこで僕が、今回お伝えしたいのは、ある社会心理学の実験結果です。
フロリダ州立大学社会心理学部のバウマイスター教授とドイツ人研究者達が中央ドイツで200人以上の男女を対象に行った実験で、「自己コントロール能力の高い人」のほうがそうでない人より、意志力を使って「欲求に抵抗している時間が少ない」という結果がでています。
実験によれば、この自己コントロール能力の高い人は、そもそも欲望に負けて浪費する”惨事”に陥る一歩手前でこらえるために、意志力をあまり使わないというのです。その代わりに、彼らは自己コントロール能力を、「学校や職場で役立つ習慣や手順をつくるために使っている」のでした。
わかりやすく言えば、誘惑に打ち勝たなければならない状況に自分をさらすようなことは避け、先手を打って「マシュマロを見ない」、「イフ・ゼンプラン」などのよき習慣によって内部に葛藤を抱え込まないようにするのが上手なのです。いい準備ができている。
誘惑から逃げているのではなく、むしろ先手を打って誘惑にさらされることを防いでいるため、結果的に誘惑に抵抗している時間が少ないということです。(ロイ・バウマイスター、ジョン・ティニー著『意志力の科学』より)