富裕層が共有する投資マインド
私は、かつて野村證券でプライベートバンキング部門を担当していた。顧客は当然、企業経営者、医師、大地主といった富裕層ばかり。日本だけでなく、華僑、ユダヤ人といった海外の大富豪とも会ってきた。そして、数多くの富裕層と公私ともに深く付き合ううちに、私は彼らに共通する点を見出した。それは「投資」という視点で、人生哲学から日々の暮らしまで、すべての物事を判断しているということだ。代々の資産家も、一代で巨万の富を築いた実業家も同じである。
一般庶民の人が投資と聞いて思い浮かべるのは、株や不動産、外貨預金、個人年金といった資産運用の手段だろう。しかし、富裕層は違う。「洋服や靴を買う」「外食や旅行に行く」といった、あらゆる消費行動も投資と捉え、対価に見合う、もしくはそれを上回るリターンが得られるかどうかで判断する。億単位の商品でも価値を認めたら即決で買うが、逆に100円の商品でもムダと考えたらビタ一文出さない。
たとえば、いま私の手元には「iPad」がある。使わなければ、ただの板状の通信端末だが、私は経済情報の収集、顧客とのビジネスコミュニケーション、プレゼン用のツールとして仕事でフル活用し、多くの利潤を生み出してきた。安くはないツールだが、元は取ったといえる。私の話がしたいわけではないが、こうした考え方が身に付いているかどうかが、富裕層と一般庶民の人との差といえる。
ロレックスよりパテック・フィリップ
「富裕層は派手な高級ブランドで着飾っている」というイメージを持っている人が少なくないはず。しかし、それは半分正しく、半分間違っている。
確かに、富裕層の多くは高価なスーツや腕時計を身に着けているが、決して派手ではない。腕時計であれば、一般庶民の人には「ロレックス」が人気だが、富裕層の間では「パテック・フィリップ」が根強い人気を持つ。主張しないデザインで、わかる人にしかわからないが、高級車1台と同じくらいの値段の時計だ。富裕層のスーツも、落ち着いた色調や柄で目立たないのだが、よく見ると最高級の生地を使った、仕立てのいいオーダーメードだったりする。それはなぜか?
一般庶民の人は少しでも目立ちたいので、派手なスーツや腕時計を選ぶ。一方、富裕層は「相手にどう見られるか」という視点でファッションを選ぶ。一番大切なのは信用力だ。それゆえ、落ち着いたファッションで身を固め、「財力があるのに、それをひけらかさない堅実な人だ」と思ってもらえるように心がける。つまり、富裕層にとってはファッションでさえ、自分の評価を高めるための一種の投資なのだ。