潜在意識に訴えかける物語が熱狂を生んだ
さらには、コトラーは「人々を感動させるストーリー」には、「キャラクター」、「プロット」(物語の筋)、「メタファー」(隠喩)の3つが重要とも言っているが、トランプの場合はどうだろうか。
◆キャラクター:変化×強さを表象するキャラクターをトランプが演出
◆プロット:熱烈な支持者ととともに「強力な敵」や「困難な障害」に立ち向かう主人公の物語
◆メタファー:「暗から明へ」、「怒りから喜びへ」など「変化」のメタファーを多用
以上のように、分析できる。
トランプが選挙戦のために出した書籍『THE TRUMP -傷ついたアメリカ、最強の切り札』(ワニブックス)の冒頭で、この本の表紙に使う写真としてあえて怒りに満ちた粗野なポートレートを選んだと述べている。まさに「暗から明へ」、「怒りから喜びへ」など「変化」のメタファーを意識していることは確実であり、マーケティング3.0を活用して、「変化×強さ」を表象するキャラクターを演じることで、有権者に強く訴えかけていると考えられる。
トランプの「強力な敵」や「困難な障害」に立ち向かう主人公の物語は、コア支持層としてターゲットの中核に据えたサイレント・マジョリティーの熱狂的な支持を集めるには絶大な効果があった。トランプの主要メディアとの対峙は、この物語から見ると、主要メディアが「強力な敵」や「困難な障害」としてトランプ物語の一部として機能したのだろう。
なお、ストーリーやメタファーがマーケティングにおいて重要視されるのは、それらが人の意識だけではなく、潜在意識に直接訴えかけるからだ。トランプがターゲットとした白人労働者層が「現状への怒りや不安をわかってほしい」「現状への怒りや不安を代弁してほしい」「現状への怒りや不安を代りに吠えてほしい」ということを切望していたことを考えてみてほしい。ストーリーやメタファーに富むトランプの過激な発言が、熱烈な支持者を生んだ理由を理解できるだろう。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/