「正直で、変化に強いリーダー」と思われたい!
政治マーケティングにおけるブランディングの中核とは、有権者のハートとマインドにシンプルで明快なポジションを、ライバルと対比しながら自らに有利となるよう描いていくことである。米国のマーケティング実務において多用される“ハートとマインド”というキーワードは、心臓と脳を意味する。論理的に納得感を高めるとともに、有権者の感情や潜在意識に深く刺さることが求められるのだ。
トランプの政治マーケティングの全体構造をまとめたものが図4である。トランプがブランディングで最後まで強くこだわったのが、自らを「正直・率直×変化」の強いリーダーとして、有権者の意識・潜在意識(ハートとマインド)にプロットすることだったと考えられる。図4の真ん中にある「ポジショニング・マップ」では、数ある対立軸のうち「変化vs.現状維持」、「正直・率直vs.偽善」の掛け合わせが見られる。
このポジショニング・マップを心理的武器として、図5で示されるようなベネフィットや価値を、有権者に提示しようとしたものと観察される。
◆「自分が好む価値観が取り戻せるかも知れない」「生活が今よりも楽になるかも知れない」「雇用が増えるかも知れない」「税金が安くなるかも知れない」という機能ベネフィット
◆「現状への怒りや不安をわかってほしい」「現状への怒りや不安を代弁してほしい」「現状への怒りや不安を代りに吠えてほしい」「うれしい・たのしい・元気になる」という情緒ベネフィット
◆「もっと強くあってほしい」「変化してほしい」「今よりはもっとよくなってほしい」という価値やインサイト
ドラルド・トランプという名前や“Make America Great Again”というスローガンを目にする度に、これらの価値やベネフィットを有権者に想起させることこそ、トランプの政治マーケティングの最重要ポイントの1つであろう。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
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