第2次セグメンテーションのなかでも、州という視点からセグメンテーション・ターゲティングを行ったものが図3だ。トランプ陣営の戦略の中核を成すものである。
選択と集中を戦略の要にしたトランプ陣営は、特にスイングステートと呼ばれる激戦州での勝利にこだわった。トランプの勝利の重大要因として、衰退した工業地帯である「ラストベルト(錆びた一帯)」4州(ペンシルバニア州、オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州)を攻略し、白人労働者層を支持者として取り込んだことが指摘される。彼らは今後のトランプ政権のコア支持層であり、政権運営マーケティングでも重要なステークホールダーになると考えられる。なお、ミシガン州はトランプが白人労働者への支持拡大を狙った最重要州の1つであり、側近のピーター・フークストラ氏は私にも、共和党候補が同州で勝利したのは1988年以来のことであると強調した。
泡沫候補が勝ち進むための「逆張り」戦略
ここまでを踏まえると、トランプのポジショニング戦略は以下のようにまとめることができるだろう。
◆ターゲットは「現状に怒りや不満を抱くサイレント・マジョリティー」
◆スローガンは「旧き良き時代」を羨望する層に向けた“Make America Great Again”
◆シンプルで明快な対立軸を立てる
―「変化vs.現状維持」
―「正直・本音vs.偽善」
―「暗いvs.明るい」
―「怒りvs.喜び」
雇用創出、減税、インフラ投資、移民政策など過激でわかりやすい政策を掲げてきたのは、これらのターゲット層に強力に訴えかけるためだ。
選挙戦でトランプ陣営は、L-P H-T戦略というターゲット戦略を使ったと言われている。これは、Low-Propensity High-Trumpの略だ。L-Pとは投票に行く確率の低い政治意識の低い人達、H-Tとは、トランプが選挙戦において演じていくキャラクター像(政治マーケティングにおけるポジショニング)に合致した人達のことだ。
つまりは、従来の選挙術がH-P、すなわち投票に行く確率の高い政治意識の高い人達をターゲットにしていたのに対して、トランプ陣営は、泡沫候補の段階から勝ち進んでいくための選挙戦略として、「逆張り」を行ったのだ。トランプ自身はこの表現をあえて使わないが、「サイレント・マジョリティー」とはまさにこの層のことを指す。