「本を読む時間がとれない」「読書スピードが遅い」。そんな悩みを解決するには、どうすればいいのか。年間700冊以上の多読生活を送る書評家の印南敦史氏も、かつては同じ悩みを抱えていた。たどりついた答えは「正しい流し読み」。元・遅読家として考えた遅読家のための読書術とは──。

「熟読の呪縛」にとらわれていないか

私は現在、複数のウェブサイトで月60本近くのブックレビューを書いています。ところが私はかなりの“遅読家”です。じっくり読むと1ページ5分、見開きで10分近くかかることもあります。自分でも嫌になるほど読むスピードが遅いのです。

そんな私が、なぜ年700冊以上も読めるようになったのか。詳しい経緯を『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)に書きました。その方法をひとことでいえば、「本を読むという行為」についての発想を転換したのです。

『遅読家のための読書術——情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』印南敦史(著) ダイヤモンド社

きっかけは2012年、ウェブサイト「ライフハッカー」からの「月~金曜日まで毎日1本、ブックレビューを書いてほしい」という依頼でした。それまで私は「熟読の呪縛」にとらわれていました。本に書いてある情報を一字一句漏らさず頭に叩き込もうとしていたのです。しかし、それでは毎日1冊を読み切ることはできません。

そこで気付いたのです。そもそも、いくら熟読しても本の内容を100%覚えることはできないのだと。たとえ覚えたとしても、時間が経てば忘れます。結局、すべてを頭に叩き込むことを前提にした読書ほど無駄なものはない。そう割り切るべきなのです。

大切なのは、本を読んだ結果として、知識や発見が「1%」でも残ること。「100%」を目指して欲張らない。そして1冊の本を深く読むのではなく、たくさんの本から「1%」を集めて、大きな知識をつくっていく。そうすれば、読書は一気に効率化できます。

著書で私はこう書いています。

<「本を速く読める人」と「遅くしか読めない人」がいるのではありません。「熟読の呪縛から自由な人」と「それにまだとらわれている人」がいるだけなのです>

この発想の転換で、効率的な読書が、楽に習慣化するのです。