哲学史上で最も頭のいい人は?

プラトンの弟子で生物学や天文学、経済学、芸術学、論理学など今日に続くさまざまな学問の基礎を築いたのがアリストテレス。直接の著作は残しておらず、講義メモのようなものをもとに構成されたのが『ニコマコス倫理学』などの本。やや難解かもしれないが、正義や友情、勇気とは何かについて究極的といっていい解決を示している。

哲学史上で最も頭のいい人は誰かときかれたときに、巨人アリストテレスとともに名前を挙げたいのが、20世紀前半に活躍したウィトゲンシュタイン。もともと工学系の学生だったが、ケンブリッジ大学にラッセルを訪ねて“押しかけ弟子”になった。20代のとき出版した著作で「哲学のあらゆる問題を解決した」と豪語し、いったんは哲学を離れ教会の庭師や小学校教師になった。40歳のときケンブリッジに教授として招かれ、そのあとで著したのが『哲学的探求』だ。哲学の問題を言語の問題として、どうしてそういう問題が生じるかを緻密に論じている。文章は平易だが内容を読み取るのは難しい。

ウィトゲンシュタインと同じく「哲学の問題はクリアに設定しクリアに解決すべし」と考えるのが僕。学生向けの講義録『ツチヤ教授の哲学講義』は一般の方にもわかりやすいと思う。ここではプラトンやデカルトといった大哲学者の考え方を「間違っている」と断じている。学生は「そんなバカな」と思うから必死で反論する。教師の言葉を鵜呑みにせず、自分の頭で考えることが一番大切なのだ。

哲学を学び、自分の頭で明晰に緻密にものを考えていく癖をつければ、自分に何ができて何ができないかがはっきりするから、よけいな悩み方をしなくてすむ。どんなことが解決できて、どんなことが無意味な問題なのかがはっきりしたら、かなりの不安が解消できる。

しかし、老化や死など人の力では解決不能な難問に突き当たったらどうするか。実は最後の武器になるのが「笑い」である。その理由をここで詳細に説明したいが、残念なことに紙幅が尽きてしまった。代わりに『われ笑う、ゆえにわれあり』を読んでいただければ、著者としていろいろな意味でありがたい。