成長はあとからついてくる

――将来目指すポジションや、描いている成長戦略はありますか。
丘を上っていくと、広大な敷地に巨大な野菜工場が姿を現す。

【田中】成長戦略は特にありません。僕たちは、農業を地域にとって価値ある産業にしたい。ただそれだけです。その必然の結果として、ビジネスの範囲が広がっていくだけだと思っています。

会社がある山梨のこの地域は、ご覧のとおり、すごい山の中です。ウグイスが鳴いていて、とても気持ちいいんですよ。ここに社員10名、パートさん約100名の新しい雇用が生まれています。60代や70代の年配の方々が、重い物を持つことなく、しゃがまず屈まず仕事ができる場所が生まれているんです。ここでは南アルプス山系の天然水で育てられたトマトをはじめ、お客さまに喜んでもらえる野菜が生み出されている。周りの人からも、「あの美味しいトマトつくってる会社で働いているんだね」って声をかけられる。そして全国の人たちから、「うちでもやってほしい」と呼んでもらえるのはうれしいことです。

――2年後には、岩手や宮城でも農場の展開が始まりますね。

【田中】震災が起きた場所で、地域に価値ある産業として僕らの農業に興味を持ってもらったら、喜んでやりますよ。いずれ地域の人たちが核となってやっていけるように、一緒になって取り組むのは必然だと思うし、それがさらに全国に広がっていくなら、それは社会的な要請があるからだと思っています。

逆に、単に「もっとビジネスを大きくしたい」という欲によって事業展開が決断されてしまったら、歪みができて、売れなくなったりするのだと思います。売れなくなるから、安くする。安くすると、今度は無理に生産性を高めなくてはならなくなり、自分たちの首を絞めることになる。働く人たちも幸せではなくなってくる。そういうことは、やりたくないですね。

――安くすることよりも、価値を生み出すことが大事だということですね。

【田中】農業を始める前は金融機関にいましたから、さまざまな企業の成長の形を見てきました。真のエクセレントカンパニーとは、きちんと価値をつくって、それが認められ、利益に反映されている。僕らも誰かと争い、奪い合って大きくなるのではなく、みずから価値をつくり出して成長していけるような事業をやりたいと思っています。