――いずれがテリーの正体か。その答えはすでに明らかになりつつある。

ここで、ホンハイとテリーについて、軽くおさらいをしておこう。

郭 台銘●1950年台湾・板橋生まれ。両親は外省人。66年中国海事専科学校に入学、71年大手海運会社に就職。74年、10万台湾ドルを元手に創業。82年に社名を「鴻海精密工業」に変更、88年に中国大陸に進出し、主に富士康(Foxconn)という会社名称で業務を展開。

テリーが同社を創業したのは1974年だ。最初は台湾の単なる町工場だったホンハイだが、88年に中国広東省に進出。やがて中国の改革開放政策を追い風に、パソコンや携帯電話などを製造するEMS(ハイテク製品の受託生産)業界の巨人となった。

ホンハイの拡大の要因は、中国の安価な人件費をフル活用したコスト競争力と、「軍隊式管理」と呼ばれる厳格な社風がもたらす生産速度だ。一般消費者向けの自社ブランドを持たない一方で、取引先にはアップルやデルのほか、インテル、ソニー、ソフトバンクなどそうそうたる企業名が並ぶ。

加えてM&Aを積極的に活用し、事業の規模と範囲を飛躍的に拡大してきた。2016年4月のシャープ買収後も、マイクロソフトのノキアブランドのフィーチャーフォン事業を3億5000万ドル買い取っている。

「私は松下幸之助氏や盛田昭夫氏を尊敬している」

日本人向けのリップサービスの場で、テリーはそんな言葉を口にする。だが、いまやホンハイの時価総額は日本円で約4.3兆円に達し、企業規模はソニー(約3.8兆円)やパナソニック(約2.3兆円)を軽く上回る。

浮き沈みの激しい電子製品業界で、30年以上も成長を続けるホンハイは奇跡の企業だ。その発展の源泉には、テリーの独裁的経営と、営業のプロである彼一流の「人たらし術」があった。