経営が悪化し、国内電機大手で初めて海外企業に買収されたシャープ。「全員の雇用を維持したい」「(シャープ次期社長は)日本人に任せたい」という言葉で安心させたかと思えば、あっという間に翻す、鴻海・郭台銘とは何者か。
「テリーはウソばかり」怒り心頭の株主
2016年6月23日、シャープの株主総会が大阪市内で開かれた。4月に台湾の鴻海精密工業(以下、ホンハイ)からの出資受け入れが決まって以来、初の総会である。
「なぜ、産業革新機構(という対抗馬)がいたのに、ホンハイに1000億円も減額されたうえ、液晶事業売却の条件までつけられたのか」
「テリー・ゴウ(郭台銘)さん、当初の条件が変わり、ウソばっかり言われてる。今後もうちょっと約束を守れないのか」
容赦のない怒号が飛ぶ。それも無理はない。当初は4890億円とされたホンハイ側の出資金額は、最終的に約1000億円減額された。今後、ホンハイ側の責任以外の理由で契約が成立しなかった場合、液晶部門のみを同社が優先的に買い取るという不利な条件まで付いている。加えて株主たちを困惑させているのが、ホンハイCEO、テリー・ゴウによるリストラ計画だ。4月時点では「なるべく全員に残ってもらいたい」と話したテリーだが、5月中旬にはついに7000人の人員削減が報じられるに至った。
「前に戴正呉(シャープの次期社長)から『人情を考慮しなくては』と相談されたことがある。だが、私はそう思わない。去るべき者は去らせよ」
シャープの総会前日、台湾で開かれたホンハイの株主総会でテリーはこんなことを言い放っている。ホンハイによる苛烈な支配を嫌った、優秀な人材の流出についても辛辣だ。
「ライバル社に移籍しても構うものか。腐ったタマゴを産むニワトリは、場所や飼い主を替えても決してよいタマゴを産まないのだ」
出資契約が成立した2016年4月、テリーはみずからの宝物である道教の黄色いマフラーを高橋社長に贈り、相互の信頼関係をアピールした。だが、「シャープに人情は不要」と言い切る現在の彼に、同社の経営陣を口説き落としたときの優しい笑顔はない。