支援しても止まらぬ核実験・ミサイル発射
制裁下にある北朝鮮に国連機関が支援を提供したのは、これが初めてではない。今から9年前の2007年8月21日にも、北朝鮮に対する国連の災害支援が発表された。地域は違うが、これも洪水による災害の支援である。前年の2006年10月14日に国連安保理が初めて北朝鮮に対する制裁決議を採択しており、すでに北朝鮮は制裁下にあった。にもかかわらず、WFPをはじめとした国連機関が北朝鮮を支援した。国連において制裁と支援が同時に実施されることは、9年前にも示されていたのである。
制裁と支援が同時に実施されるのは、それぞれの目的が異なるからである。北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議は、国際安全保障に基づいて、北朝鮮の核兵器やミサイルなど大量破壊兵器の開発を中止させることを目的としている。それに対して、北朝鮮に対する国連機関の支援は、人道主義に基づいて、災害などで被害を受けた人々の救済を目的としている。
しかも、制裁と支援では、同じ国連であっても担当する機関が異なる。制裁を決議したのは国連安保理であるが、支援を決定したのはWFPやUNOCHA(国連人道問題調整事務所)、UNICEF(国連児童基金)などの国際支援を業務とする国連機関である。それぞれ異なる目的で行動しており、お互いに干渉することはまずない。だから、国連では、制裁と支援を同時に実施しても問題ないのである。
では、北朝鮮では、国連に支援を要請するほど災害で国家が疲弊しているのか。WFPが支援を発表した9月13日に、北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』は、朝鮮人民軍第810軍部隊傘下の第1116号農場を現地指導して、豊かに実った陸稲に囲まれた金正恩の写真を掲載した。軍隊傘下の農場は豊作でありながら、咸鏡北道では洪水によって多くの田畑がダメージを受け不作である。
しかし、軍隊傘下の農場は、軍隊に食糧を提供することを目的としており、咸鏡北道に食糧を提供することを目的としない。北朝鮮では、地方の人々がいくら疲弊しても、軍隊の食糧を犠牲にしてまで、彼らを救済することはなさそうである。それは、国連機関がいくら地方の人々を救済しようと、これからも北朝鮮は核兵器やミサイルを開発していくことを示している。国連機関が支援したからといって、北朝鮮が核兵器やミサイルの開発を中止することを期待するのは大きな誤りである。