北朝鮮の要求は「盗人猛々しい」のか
2016年9月13日に国連WFP(世界食糧計画)は、8月末から9月初めにかけて台風による洪水の被害にあった北朝鮮の14万人のために緊急支援を提供すると発表した。被災地域は、北朝鮮の北部地域にある中国との国境に面した咸鏡北道である。その支援のためにWFPが必要とする金額は140万ドル(約1億4000万円)と発表された。さらに1年間支援するために2100万ドル(約21億円)が必要であるとWFPは発表した。
WFPが北朝鮮に支援することになったのは、もちろん北朝鮮政府が支援を要請したためである。咸鏡北道は豆満江流域に面している地域があり、大雨によって洪水が発生することがよくある。2015年夏には、中国とロシアに面した豆満江河口にある羅先市で洪水が発生した。今回は、広範囲に想定外の大きな被害が出たため、北朝鮮がWFPに支援を要請したと考えられる。
しかし、なぜ国連機関であるWFPが、北朝鮮の要請に応じたのであろうか。北朝鮮といえば、9月5日のミサイル発射と9月9日の核実験を国連安全保障理事会(国連安保理)が報道声明で批判したことが記憶に新しい。核実験は2006年以来5回目であり、国連安保理は4回も国連憲章第7章第41条に基づいた制裁決議を採択してきた。さらに国連安保理では、5回目の核実験を受けて、北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択するための協議が進んでいる。その最中にWFPが北朝鮮に対する新たな支援を発表した。国連機関が、北朝鮮に対して、同時に制裁と支援を準備しているわけである。これは一体どういうことであろうか。
核実験によって国連から制裁を受けている北朝鮮が、災害で被害を受けたからといって国連に支援を要請するのは盗人猛々しいと憤る向きもあろう。制裁を受けることと支援を受けることが矛盾していると考えるのはごく自然なことと思われる。だが、国連の制裁と支援は、まったく異なる目的を持った両立する行為なのである。