MBAホルダーを活かす方法はあるか

こう見てくると、MBAホルダーが活躍できるのは、トップダウン型の組織か独立起業、と言えます。トップダウンの組織において戦略立案はトップマネージャーだけに許された仕事であり、その組織は形式知を扱うのに向いているといえます。

これに対しミドルアップダウンは、形式知と暗黙知を併存させる経営です。当然のことながら、形式知のMBAだけでは十分ではありません。そこに日本的経営におけるMBAの位置づけのむずかしさがあります。

そこで、先ほどの受験生を子に持つ親御さんの話が意味を持ってきます。大学から海外留学した若者や帰国子女には、MBA型シンキングをするパターンが少なくありません。だから、日本の企業に籍を置いても、使いづらいと感じさせる現実があります。彼らからすれば、日本の実社会がカオスの連続で暗黙知の世界ですから、形式化された欧米の視点で見るとわかりにくく、結果として成功事例が期待されたほど多くないのではないでしょうか。

それなりの費用と時間、そして労力を使って、MBAという資格を取得してきたわけですから、活かさないのはもったいないとしかいえません。もともと、海外に出て目的を達成できる優秀な人材なわけですから、「郷に入れば郷に従え」はできるはずです。どこかで日本と西洋の思考パターンを、その場の状況に応じて臨機応変に使い分けるハイブリッド型になれれば、ワンクラス上の人材になっていく可能性がかなり高いといっていいでしょう。

日本の場合どのような資格にも当てはまることですが、現場で結果を出してこそ評価されるわけです。米国ではトップダウン型を背景に専門知識・スキル・ノウハウ等の能力面(形式知)を重視した採用が行われているので形式知は評価されますが、日本の場合、ミドルアップダウンを背景としたビジネスの進め方、判断基準、人間関係、コミュニケーションのスタイルがどうしても人物面(暗黙知)も選考対象とするため、資格(形式知)を闇雲に主張されたのでは、組織との相性という点でなかなかマッチしません。ですが、ホルダーで評価される人たちに共通するのは、暗黙知も形式知も双方を同時に取り込み思考し行動していることで、それは日本のヘッドハンティングの現場において魅力ある人材として対象となっています。

いずれにしましても、例えば30歳で戻ってきたとすれば、新卒でその年齢まで働いてきた日本人社員、それもトップクラスと比べて認められるには、公益心や公徳心を持って周囲との協調関係、良好な人間関係を築くことが、日本そしてミドルアップダウン型の経営では不可欠でしょう。

日米どちらの大学を卒業しているにせよ、世間でいうところの「活躍する人」というのはそういうことです。当社が契約受注する企業の多くがミドルアップダウン型の日本企業という限られた世界の話となりますが、日本の大学・大学院をベースにキャリア形成している人のほうが多いという現実があります。と同時に、クライアントから感謝されるのも、今のところそうした人材だということができます。

武元康明(たけもと・やすあき)
サーチファームジャパン社長
1968年生まれ。石川県出身。日系、外資系、双方の企業(航空業界)を経て約18年の人材サーチキャリアを持つ。経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型の違いを経験・理解し、それを企業と人材の マッチングに活かすよう心掛けている。クライアント対応から候補者インタビューを手がけるため、 驚異的なペースで 飛び回る毎日。2003年10月サーチファーム・ジャパン設立、常務。08年1月代表取締役社長、半蔵門パートナーズ代表取締役を兼任。
(取材・構成=岡村繁雄)
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