子どもの虫歯率と親の年収の関連はあるのか?
総務省『住宅土地統計』から23区の平均世帯年収を計算し、図2の虫歯率との相関をとると図3のようになります。
年収が低い区ほど低学年児童の虫歯率が高い傾向にあります。相関係数は-0.8349にもなり大変強い相関関係です。地域単位のデータですが、貧困と虫歯の結びつきのマクロ的な表現といってよいでしょう。
この統計的事実(fact)から「貧困家庭の子どもほど虫歯になりやすい」という命題を演繹できるとしたら、具体的にどういう事態になっているのか。まず考えられるのはお金がなくて歯医者に行かせられないことですが、都内23区では義務教育段階の子どもの医療費は無償ですのでこの面ばかりを強調するのは誤りでしょう。
しかるに貧困世帯の親は忙しく、子どもを医者に連れていく暇がないということはあるかと思います。ダブル(トリプル)ワークをしている一人親世帯の親は、わが子を歯医者に連れていく時間を取れません。代わりに連れて行ってくれる人がいるならいいですが、そういうネットワークがない人は困ります。
地域の民生委員などがその役割を担ってはどうでしょうか。最近は子育てを支援する「家庭教育支援チーム」(メンバーは子育て経験者、教員OBなど)が各地で組織されていますが、こうした人的資源を活用するのもよいでしょう。
子どもの健康に対する関心が薄く、子を歯医者に連れていくのを億劫がる、歯磨きなどの躾も疎か、という家庭もあります。こういう家庭に対しては意図的な啓発が求められます。学校保健安全法第9条は「養護教諭その他の職員は、相互に連携して、健康相談又は児童生徒等の健康状態の日常的な観察により、児童生徒等の心身の状況を把握し、健康上の問題があると認めるときは、遅滞なく、当該児童生徒等に対して必要な指導を行うとともに、必要に応じ、その保護者に対して必要な助言を行うものとする」と定めています。
あまり知られていませんが、学校での保健指導の対象には当該の児童生徒だけでなく保護者も含まれるわけです。とりわけ低学年の児童の場合は、保護者に対する指導(啓発)が重要となります。
家庭環境とリンクした子どもの学力格差はよく取り上げられますが、体力格差(本連載「なぜ、富裕層の子は下町の子より運動能力が高いのか?」http://president.jp/articles/-/17395)や、ここでみたような健康格差現象も厳として存在します。こちらの問題にも、社会的な関心が向けられるべきかと思います。