プロジェクトの方針に悲鳴を上げた現場

社名変更の期限は10月1日。

それまでに工場から販売店、広告やマーケティングの企画まで、無数に思える作業を完了しなければならなかった。

例えば、ナショナルブランドの白物家電は720機種ほどだが、ロゴを「パナソニック」に入れ替えればいいという話ではない。まず流通過程で混乱を生まないよう、品番をすべて新しくしてほしいという要請が家電量販店からあった。それに伴う事務作業は、製造現場に多大な負担をかけることにもなる。当然、難色を示す担当者を説得しなければならない場面も出てくるだろう。

また、梱包材のデザイン、取扱説明書、保証書、パンフレット、カタログ、展示物、マスコミへの対応、ウェブサイト、全国のナショナルショップの看板……。数え上げればきりがなかった。必要事項をリストアップすればするほど、作業は気の遠くなるような膨大さになっていく。

「そうやって考えているうちにも、工場ではナショナルブランドの冷蔵庫や洗濯機が生産され続けていくんですからね」

技術本部・DPIM推進室の今井一夫参事は当時を回想して苦笑する。また、開発を担当する国内ドラム洗技術グループ・松岡真二主任技師も言う。

「新製品の立ち上げは1年前からすでに準備が進められています。ところが今回のブランド統一は、継続して開発を進めている商品の内容を、秋に向けて一遍に変えろという話です。品番の変更だけでもたくさんの書類をつくらないといけないのに、これは大変だと思いました」

工場があるのは日本だけではない。関係する会社を裾野まで考えれば、いったいどれだけの人々が影響を受けるのか。あらゆる部署からやってくる質問、不安、苛立ちは、回り回ってプロジェクトの責任者である中島に圧しかかる。

ドラム式洗濯機、冷蔵庫、掃除機、エアコンなどの新製品を、社名変更とともに発売することも決まった。そのお披露目の場となる9月16日の記者会見は、中島の率いるプロジェクトにとって最大の山場となった。

「“登場感”をいかに演出するのか。それが最も意識していたキーワードでした」