自宅療養向きなのは短期決戦の末期がん
母親を自宅で穏やかに看取ることを決めた小池氏が最初に行ったのは、「介護日誌」をつくることだった。
「できる限り母と過ごそうと決め、キャンセルできるもの、延期できるもの、代理で行えるものにはすべて頭を下げました。それでも、議員として果たさなくてはならない義務もあります。私はたくさんの人の力を借りて、チームで介護に取り組みました。私と母にとっての幸運は、チームに恵まれたことだと思います」
介護日誌は、母親との大切な時間を「思い出」として記録する意味と、介護・医療スタッフとの連絡帳的な意味があったのだ。小池氏は「おかしな言い方かもしれないが」と前置きしたうえで、こんなことも言っている。
「末期がんは、さまざまな病気の中でも自宅療養に向いていると言われています。自宅療養の末期患者が旅立つまでの期間は、平均カ月半程度。つまり、短期決戦なので看取りまでの予測が立てやすいのです。これは、症状がゆっくり進み、10~15年続くこともある他の疾病や認知症の介護と大きく異なる部分。早すぎる『お迎え』ですが、介護側が倒れる二次災害はありません。結果として、母はわずか12日間で逝ってしまいました」
痛みを和らげるためのモルヒネの影響で、時にあらぬことを口走り、時に正常になる母親。楽しかった昔の思い出話で痛みを紛らわせようとした夜もあった。自宅で過ごした12日間は、非常に濃厚なものになったそうだ。喪失感はもちろんあるものの、看取った後にある種の達成感のようなものを抱くこともできたという。介護を続ける人にとって、これは大きな支えになる意見だろう。
こうした自身の経験に基づいて、小池氏は都政を運用していく。少なくとも介護に関しては、「都民に優しい東京」になるのではないだろうか。
(奥谷 仁=撮影)